くしゃり。
目の端でちらつくピンク色した髪の毛を握るように撫でてみる。するとその髪の主は「なんやの、急に」とだけ言ってふわりと笑った。俺がこうやって急に触れても君は何一つ嫌がらないから、

「いや、視界に入りよったから何となく」
「なんそれ、ちょっと酷ない?」
「なんが酷いんや」
「いや、別に?」

ついこの間まで俺よりも小さくて、ぴーぴー泣いてばかりだったというのに今では背も少しぬかされ、体つきもガッチリした俺の弟は、なんというか凄くたくましくなった気がする。兄ちゃん兄ちゃんと甘えてきた日はもう来ないのだとしかと実感し、少し悲しくなる。いつか俺の元から巣立つ日が来てしまうのだと、いつかこうして触れる事が出来なくなってしまうのだと、
ふわり、ふわり、いつになく優しく廉造の髪の毛を撫でる。それは意図的ではなく、きっと俺の本心で。それに廉造は何故か不安がるように、

「金兄、どしたん。なんかあった?」
「…は?なんでや」
「いや、なんか今日の金兄優しゅうておかしいなて思て」

どことなく寂しそうやし。廉造はそう苦笑いを溢した。それに何か、全てを見透かされてしまったようで少し恥ずかしくなって、いつも優しゅうなくて悪かったな、と返し同時にぐちゃぐちゃと乱暴に髪の毛を撫でてやった。

「だあっ!やっぱさっきの言葉無しや!いつもの金兄やった!」
「うっさいわド阿呆!余計なお世話や!」
「いだだだだ!髪引っ張るんやめえ!禿げるやろ!」
「お前なんか禿げてまえばええんや」
「はあ!?この歳から禿げるとか無しやろ、俺の未来無いわっだあ!!やめええ!!」

いつかこうやって笑ったり言い合ったりする日も失われてしまうのだろうと心の隅で考える。だから、いつかその日が来るまでにもっと彼に触れておかないと思ってしまう俺は少し可笑しいのだろうか。でも、そうしないときっと俺は、後悔してしまうから。


「廉造、好きやで」
「…うっわ、きも」
「兄にそんな口の利き方してええと思てんのか」
「ええよ、金兄やし」
「シバいてほしいみたいやな、廉造」
「うわ、ごめ、すんませんでしたやから虫さんだけはやめてホンマにぃいあああああ!!」



君に触れる度に僕の何かが崩れていく


(全て崩れてしまう前に、後悔だけはないように)



20110927 黒豆
         <祓!>

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