彼は産まれながらに背負っているものが大きすぎた。

産まれて育つ場所は親にだって、子にだって決める事は出来ない。彼が産まれ、育った場所が偶然明蛇宗の頭主、勝呂達磨の元だったという事だけで、生きる道が決まってしまっていたのだ。それでも勝呂達磨――和尚様は彼に、「自由に生きろ」と言ったのだ。座主を継がなくても良いと、好きなように生きろ、と。
けれど彼――勝呂竜士は、"青い夜"という祓魔師殺しの一件から和尚様の寺が祟り寺と呼ばれるようになり、たくさんの人々が実のお父を信仰しなくなってから「寺を建て直す」と夢を持ち、座主を継ぐ道を選んだのだ。それにもちろん和尚様は反対しお怒りになったわけだが、彼は意見を押し切り家を飛び出してきた。そして今にあたる。
――そんな彼と、俺は"彼をお守りする"意を含めて共にいる。

「…坊」
「おん?なんや」
「俺、坊が和尚様にならはっても絶対着いていきますからね」
「はぁ…?急に何やねん、気色悪い」

前を歩く、広く大きな背中に言葉を投げ掛けてみる。全て胸の内の本音、なわけだが彼は間に受けるような様子もなく、それどころか顔をしかめられる。
しっかりとした意見を持ち、自分をしっかり立たせている彼の姿は格好よく、端から見れば男らしい人、なのだろうが俺から見れば彼はしっかりしすぎている。ただひたすら己の願望のために自分をいましめ、倒れても倒れても無理矢理起き上がる。仲間を頼れだの一人やないんやぞだのと言うクセに、それを一番出来ていないのは自分自身ではないか。一人では出来ない事がたくさんあるというのに全て自分で解決させようとしている彼はやはり、何もかもを背負い込みすぎている。そのうち倒れてしまったら元も子も無いと言うのに、それでも彼は。
だから俺は、

「坊の背負うてるもん俺も背負います。から、坊は俺に着いてきてもらわんとアカンようなりはりますよ?」
「…はあ?誰もそんな事頼んどらんわ」
「頼まれんくても勝手に背負わせてもらいます。一人で全部できる思たら大間違いですえ。そのうち壊れてもうてもおかしない」
「……。余計なお世話や、阿呆」

振り返っていた坊がまた、俺に背を向ける。その時作られた拳が俺の言葉に応えているように見えた。



重い荷物だから持つんでしょう


(それは重たすぎる荷物だけれど)



20110926 黒豆
         <祓!>

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