んむ…、と時々声を出して、俺の隣で無防備に寝る勝呂を見ているとまた、どうしようもない気持ちに陥る。
ずっと、産まれてから今まで一緒に過ごしてきた勝呂。たった一人の後継者として、次期和尚になる為にお守りしなければならない勝呂。偶然同じ年に産まれ、同じように育った勝呂。
そんな勝呂に抱いてはいけない感情を抱いたのは、中学生の頃だった。目付きが悪かったものの、他人優先が当たり前で成績も運動も素晴らしく出来ていた彼は、本人は知らないだろうがモテていた。俺の記憶に残る、中学時代に女の子と話した内容は全て勝呂に関するものだったかもしれない。
そんな勝呂の事を羨ましくも思っていたが、それよりも何よりもその事が苦しかった。彼がいつ、女の子と付き合い、俺へ向けられる言葉や俺だけが知っている表情が、全てその彼女に与えられてしまうのが怖かった。
その口で好きだと言葉を発し、その目で優しく、愛しそうに見、その今は片方だけの手が塞がってしまうのかと考える度に、俺の心は痛いほど握り潰され、どうしようもないほどの苦しさが溢れていた。
苦しくて苦しくて悲しくて悲しくて、毎晩毎晩幾度泣いていたか解らない。幾度、彼の近くから消え去りたいと思ったか解らない。
そんな風に苦しんでいた俺を彼は欠片も知りはしなかっただろう。その頃からきっと――いや、確実に俺は彼の事が――

『坊、好きどすえ』
『…何言うとんや気持ち悪い』
『酷っ!折角坊が好きやぁ言っとんのにー!』
『折角も何もあるかい!せめて"友達"として位つけえ!』
『…。…はは、さいですね、ほな友達として――――』
『…せやったら俺も、好きや』

言葉を交わす度に辛くなって泣きそうになってしまう自分が情けなくて、もしも、もしもと我慢しきれなくなって出た言葉と想いに、友達としてならと答えた勝呂。その言葉で俺が、どれだけ傷ついたかのか彼は知らない。きっとこれからもずっと知りはしない。
この気持ちは気のせいなんだと、彼の事を少しでも忘れようと、俺は女の子と一緒に居るようになった。でも、そんな女の子達から出る言葉が全て勝呂の話で、全く忘れられなくて。そればかりかどんどん苦しくなって、学校を仮病で何度か休んだ事も、あった。体はどこも悪くないのに胸だけが痛くて痛くて張り裂けそうで。隠していてもやはり兄弟には、相手が誰なのかまでは解っていないだろうが俺の仮病の理由が伝わってしまって、柔兄は「頑張りや」とだけ言い俺の頭を撫で、金兄は「お前もっとガツンといけやガツンと!めんどいやっちゃな!」とからかって出ていった。けれど、『これ、ええ香水や。使え』とだけ書かれた紙と一緒にあった瓶は彼なりの優しさで、彼も俺を心配してくれていた。
叶わない想い。叶えれない願い。通じる事の無い気持ち。
中学を卒業しても、それは俺の中で継続されていた。

ほわ、と真ん中だけ黄色の髪に触れてみる。もっと俺が早く、この気持ちに気付いていたのならどうにかなっていたのだろうか。疲れて少し黒ずんだ目の下を親指の腹でなぞってやる。ん、と勝呂は寝息をたてた。ホンマにこの人は、今まで俺の気持ちに少しも気づかんと、

「…罪なお人、やえ」

未だすぅすぅと寝息をたてる彼の瞼に、触れるだけのキスを落とした。




この想いに終止符は打たれない



(俺はこれからも、この気持ちと生きていく)



20110903 黒豆

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