お前なんか、大っ嫌いや。

ほんの数分前、金兄にそう告げられたばかりだと言うのに、一体今の状態は何を意図しているんだろう。金兄の細い腕が俺の背中へと回り、お互いの体は密着状態。きゅ、という音が聞こえてくるようなやわらかな抱擁。
ああ、ほんまに訳わからんわ。嫌いなんちゃうの。
面と向かって嫌いだと言われた事は、兄弟だとは言うもののそれ以上の関係になった俺にとって胸に痛いほど突き刺さった言葉だった。俺に好きだと言ってきたのは金兄であったが、好きな気持ちは俺だって同じだ。いつものように金兄の部屋に行き、いつものように話していると急に放たれた言葉がそれであって、それがどれだけ俺の心を傷つけたのか、少なくとも今の状況から考えて金兄は知らないだろう。

「…金兄、何してるん…?俺の事、き…嫌い、なんやろ?やめぇや」

自分でそんな言葉を言っただけなのに、胸がチクリと痛む。俺はいつの間にこんなに、金兄の事好きになってもうたんやろ。嫌われたない、そんな気持ち、なんでこんなに大きいんやろ。
トク、トクと金兄の心音が伝わってくる。少しだけ、ほんの少しだけ金兄の回された腕に力が入ったのを俺は見逃さなかった。

「嫌い…嫌いや、廉造なんて、嫌いや……」

そう言う金兄の声は何処か寂し気で。
その時俺は、やっと金兄の言葉の意味を理解した。きっとこの関係にはたくさんの障害があって、俺の為にも、金兄の為にも、

「金、兄、」
「廉造なんか、嫌い、なんや……っ!!」

ぎゅう、と金兄の腕に力が入る。その力がなにか、辛くて、悲しくて、苦しくて苦しくて苦しくて。

「…嫌いなんやったら、そんな抱き締めんとってぇや…、」
「廉造なんか、廉造なんか…っ!」


嫌いになんか、なられへん


そう金兄は俺に、泣きながら呟いた。





嫌いの中身


(溢れた涙は偽りなんだと、誰か言って)



20110901 黒豆

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