いつからだろうか、
こんなに人を想うようになったのは。

いつからだろうか、
こんなにも一人の人を、好きになっていたのは。

縁側。寝転びながら、空を見上げる。青い。どこまでも青く、澄んでいる。動く雲が時の流れを感じさせるようで、思わず手を伸ばす。ああ、このまま時が止まってしまえば良いのに。俺も、この家も俺の兄弟も、何もかもこのまま、全て止まってしまえば良いのに。そんな事を考える。
あの頃より少し長くなった、俺の視界を邪魔する黄金色の前髪をかきあげる。空が、青い。


「金兄、何しとん」
「!!」

ひょこ、俺の視界に入ってきた、青とは全く反対の存在。急に現れたその存在に、焦って体を起こす。な、何やいきなり!とそれを隠すように叫んでみると、こっちが何や!いきなり大声出してビックリするやろ!と叫び返された。

「お、お前が急に俺の視界に入るから悪いんやろ!」
「俺が急に金兄の視界に入ったらアカンなんか今まで聞いた事無いわ!」
「ほな今つくる。お前は急に俺の視界に入んな!心臓に悪いんや!」
「なんそれ!失礼にも程があるわ!」

咄嗟の事で口をついた言葉。後になって、ハッと我にかえる。決して傷つけるような言葉を言うつもりでは無かった。微塵も、無かった。金造もつくづく不器用なやっちゃなあ、と言った柔兄の言葉を思い出す。その通りだ。自覚はしている。今だって、決して唯一の弟――廉造が現れたのが嫌だった訳じゃない。むしろ、その逆だ。逆だからこそ、そんな軽率な言葉を廉造に放ってしまったのだ。

「す、すまん廉造、そんなつもりは――――」
「もうええわ」
「…え?」

「金兄、俺の事そんなに嫌いやねんな。金兄の言う通り、もう金兄の前に姿現さんとくわ。」
「ちょ、ま、廉――」
「ほな」

カタン。庭の鹿威しがいつもより大きく響いた。ザワ、と葉々が擦れ、時が進んでいるのを感じさせる。遠ざかっていく、あの頃とは比べものにならない位大きくなった背中をただ見ている事しかできない自分が居た。目が捉えていたピンク色の髪が見えなくなった時、俺はバタリと縁側に倒れ込んだ。

「……またやってもぉた」

黄金色の髪が、青色の空を隠す。俺はいつもこうだ。いつも廉造を怒らせて、傷つけて。望んでいる事とは全く反対で、良いようにものは進んでくれなくて。
つくづく不器用なやっちゃなぁ。柔兄の言葉が、頭の中で反響する。本当は、君に伝えたい本当の言葉は、

「…好き、なんや、廉造」





伝えたいのは

(自分から、空回り)



20110829 黒豆

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