「坊〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!助けてくださいいいいい!!!!!」

どたどたと言う足音と共に、大声を出しながら部屋の襖を勢いよく開けた、ピンク色した頭の主に一喝する。

「喧しわ!!いったい何時や思うとんねん!」

時計は夜の10時過ぎた所を差していて、そんな時間に大声で走り回るとは何事だ、近所迷惑にも程がある、と助けを求めた声を完全に無視していた。志摩にどうした、と心配するよりもご近所さんの事の方が優先だと思ったのだ。何故ならこういうことは、あまり珍しい事では無いからだ。
ガミガミと志摩を説教していると、ひっ、と息を飲む音が聞こえて、坊、た、助けて、と何かに怯えるように言葉を繋げられた。

「俺、アカンのです、ホンマに、虫の次位に」

志摩が途切れ途切れに言葉を繋いだその時、外が一瞬――本当に一瞬だけ――まばゆい光を放った。 今日は天気予報で大雨との予定で、朝テレビの人がそう告げられた通り今さっき、急に雨が落ちてきて、そしてゴロゴロと――俗に言う雷が――俺らが住んでいる場所を通過中だった。


――…どぉ…ん。

低い唸るような音が響く。どうやらすぐ側で落ちたようだ。光った後すぐに音がすれば近いのだと、昔誰かに教わった。
それを認識すると同時に、ずし、と体に重みがかかる。そこに目を落とすと、俺の腰に志摩がしっかりと引っ付いているような、つまり抱き締められているような体制にあった。こ、コイツ、急に何しよんねん。

…――そんな邪念は、志摩の様子を見てすぐに消え去った。



「志摩…お前、怖いんか」


ぷるぷると小刻みに震えている志摩は一向に顔をあげようとしなくて、そればかりか回されている腕の力がまるで締め付けられているかのように強い。
けれど、その力の強さが俺をすがってくれてる強さなのだと、志摩には悪いが心地よくも感じた。

「あ、あか、アカンのです、俺、雷さんだけは、小っさい頃から」

ぴか、外が光る。それと同時に、ひぃ、と小さな悲鳴をあげる志摩。
――そんな姿に、可愛いと思ってしまったのはきっと、俺だけでは無いはずだ。
志摩の髪の毛をふわ、と撫でてやり、少しだけ抱き締めてやる。すると志摩の、さっきまで強張らせていた体が緩む。安心するのだろうか。今までこれを経験してきた志摩の兄貴が少し羨ましいと思った。

「これからは俺が居るから、そんな怖がらんでええ」
「……ぼ、」
「雷からであろうと何であろうと、守ったるから。やから、」




一人じゃない



(ごろ、と空が鳴った時、もう志摩は震えていなかった)

20110826 黒豆



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