「柔兄てな、好いとるやつとかって、居らんのん」
「…は?」

毎度毎度ノックもせんと部屋に入ってくるもんやから、お前は何回言うたら解るんや!と怒鳴り散らした所であると言うのに、お構い無しになぁなぁ柔兄、と弟の権限を使うてかいらしく問うてくるからやっぱり俺が折れてしまって。なんや、と聞いたらこの始末。
金造もまだまだ盛んな歳であるし、その事については対して驚きもしなかったが問われた内容に動揺を隠せなかったのは事実で。
その動揺の理由を知っているのは俺だけと言うのも事実で。

「その反応は居るんやな!柔兄モテんのに、想い寄せてる子には振り向かれてへんねや。」
「………せやな」

モテる、と言うのはどうだか知らないが、振り向かれていないというのはその通りだ。振り向く以前に、そのような相手――つまり恋愛対象として見られていないかもしれない。…いや、見られていない。少なくとも普通は、見ない。

「柔兄に限ってそんな子が居るやなんて…その子ハードル高いんやなぁ…。……で、誰なん」
「さぁ、な?」
「ひっど!教えてくれたってええやん!別に言うわけやないし」
「教えへん」「教えてや!」
「嫌やー」

金造の頼みに、嫌だと返しながらカラカラと笑ってみせる。一番近くに居るのに、その子は振り向いてくれない。俺だけに見せる表情や、俺だけが知っている一部だってあるのに、その子は、

「そない言う金造はどやねんな?」
「え、お、おお俺!?…お、俺の事は、別にええやん」
「へぇ、居るんや?」
「!!っな、なななな何を」
「ホンマ、解りやすいやっちゃで。金造は昔っからかいらしいなぁ」

真っ赤になって慌てる金造を見て、本当にかいらしくて、ふと笑みがこぼれる。同時に、金造が好いてる子が居ると知り、あぁ、やはりいつかは俺の手元から離れて行ってしまうんだと、いつかはこうしていられる日も失われていくんだと、そうして俺の中でそれがかけがえのない思い出になるんだと、そう思った。だから、それまでは、君を愛そうと

「…。…俺が好きなんは、柔兄だけ、や」


俺の手元に置けなくなるその日まで、ただ、君を愛する、



「……金、」
「なんもない!!ほなな!!」


つもり、だったのに。










「………予定変更、やな…」
予定変更


(もう絶対に、手離さへん予定に。)




20110822 黒豆



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