朝起きたらそれはもう珍しすぎるほど、毎朝毎朝絶対隣にいるはずの志摩がいなかった。
なんや、俺今日そない寝てもうたんか。ぐしゃぐしゃと長い前髪をかき乱す。
今日は日曜。朝か昼か解らんような時間――だいたい11時ぐらい――志摩はのそのそと起きてくる。そんなやつがもう起きとって、俺は起きてへんやなんて。俺も志摩と同じぐうたらになったもんやな、と携帯のディスプレイに目を落とすと、ピカピカと光る文字は午前7時をあらわしていた。
午前7時か…まぁ、平日やったらもう寮出とる時間かな…。…ん?午前7時……?

ぼーっとしていた頭が一気に覚醒する。午前7時。休日に俺が毎朝起きる時間と全く変わらん。やのに志摩が俺より早ぅ起きてる?……そんな阿呆な。そんな事、天と地がひっくり返ってもあり得へん。じゃあ何や、アイツ夜帰って来んかったんか?どっか行ったっきり寮帰って来んかったとか。ぐちゃぐちゃ、と黒い気持ちが胸を支配する。
そんな時、タイミング良くアイツは現れて。

「ぁ、坊、起きてはったんですか」
「……っ志、摩」
「?どないしたんです?そんな変な顔して…。悪い夢でも見はりましたん?」

志摩は俺の今の顔を見て心配したのか、徐々に距離を縮めてくる。俺の今のこの気持ち、そんなに顔に出てるんか。最悪や。嫉妬、というより疑惑、なんか、志摩の事信じてないみたいでみっともない。ホンマに…最悪や。
ぎゅ、と唇を噛んでうつ向いていると、ふと頭にぬくもりが伝わる。ふわふわと優しく、愛でるようにコイツは、俺の頭を撫でてくる。その行為が余計に胸を締め付けて、俺を苦しめる。

「…おまえ、なんでこんな…起きるん、早いんや」
「へ?あぁ、いや、それは…」
いっそ聞いてしまえと、俺の喉から声は出たのに志摩から返ってきた答えは望んでもいない、そんな、はぐらかしたような言葉。頬をかいて目線を泳がす志摩は、まるで俺に、嘘をついているようで。俺には言われへんのか。言われてへん事、しとったんか。
ぐ、と言いたい言葉を胸で押し留め、志摩に目線で訴える。それを目線でしか言えず、言葉であらわせないのは、俺の心が志摩はそんな事せぇへん、信じろと脈打っているからだった。

「…え、と…坊?どないしたんです?あ、俺が朝早う起きてるんが珍しいてビックリしてます?」
そう、志摩はへらへらと笑う。…違う。ビックリを通り越して、俺は、お前を

「……もしかして疑ってはります?」
「!」

疑って、なんかない。信じてる、でも、

「……当たり、ですか。…しゃーない。ホンマはもう少し時間かけたかったんですけど…坊、来てください」
「な、志摩…」

ぐい、と志摩は俺の手を引く。なんなんや。志摩、お前は何がしたいんや。
されるがままに布団を抜け、志摩によってリビングへの扉が開かれる。そこで、明るい光と共に目に入ってきたのは、

「…坊、お誕生日おめでとうございます!」
「………っ!!」





疑いは間違い


「あれ、坊泣いてはります?」
「な!泣いてへんわ!!」
「そぉですかー?俺には涙見えるんやけど、気のせいでっしゃろか?」
「き、気のせいや!」
「……。…坊、愛しとりますよ。」
「……っ!阿、呆…!」


20110821 黒豆
一日遅れましたが坊ハピバ!志摩兄弟を絡ませても良かったな。


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