※原作沿い妄想!アニメ放送の前に書いたので話がぶっ飛んでます。でも若干一緒だった、若干。← 死ネタ注意。

おkな方はそのままどうぞ































ぐしゅ。
自分の中の全てのものが、そんな音をたてて潰れた気がした。
それと同時に目の前に広がったのは、黒く渦巻かれた妖気と、赤黒い血。
胸の辺りがギリギリと痛む。悪魔により長くなった爪が、自分の胸を突き刺している。
何を…!と苦しそうに言った僕の中の悪魔は、精力の無くなった僕に憑いてはいられないと悟ったのか、弱ったままずるずると僕から出ていく。目の前に居た坊が、それを詠唱により倒したのを虚ろになっていく目で見届けた。
悪魔に憑かれていたせいで長かった爪も、耳も、飛び出た尻尾も全てが元どうりに戻っていく。突き刺されていた爪は短くなった事で抜け、じわりと血を一層滲ませる。

ぽたぽた。ぽたぽた。

胸から、血雫が重力に従って下へ落ちる。
そのせいでじりじりと焼けるような胸の痛みが、僕の息を難しくさせた。視界がボヤけて、音もとれなくなる。黄色い髪をした坊が必死で何かを叫びながら走ってくるが、それを理解するのにも少しの時間がかかった。ぐら、と世界が揺れたかと思うと、身を投げだしたかのようにどさりと音をたてて地面へ倒れ込んだ。
坊のがっちりとした手が、僕の背中を揺する。ぐる、と体が半回転させられると、涙を流す坊の姿が目に入った。坊、泣いてはる。今まで坊が泣いとったんなんか、見た事無いのに。もしかして、僕の為に泣いてくれはってるんかな。
頬に温かい水滴が落ちる。
坊が僕を見て泣いている姿は、何故か物凄く美しくて。
坊の涙を見た事、それは僕にとって、最後の、


「子猫、死ぬな、子猫…!」

坊の口が、そう描く。何度も何度も、何度も何度も僕の名前をただ、呼んでいる。
あぁ、坊、僕の心配してくれはってる。ホンマに、僕は幸せもんやなぁ。やのに僕は、坊にたくさんもろたもんあるのに僕は、


「ぼ……、」
「!!」

言葉にしないと。
この心臓が止まってしまう前に、貴方に伝えなければ。

「坊…、僕、坊を……お守りせなあかん、のに、
坊に…守ってもろてばっかりで……、僕、ほんま…アカンやつ、やったけど………
今まで…ほんまに、」

坊は僕にたくさんのありがとうをくれた。たくさんの、笑顔をくれた。
小さな頃からずっと一緒で、いつでも隣には坊が居ってくれた。
志摩さんを二人で制止したり、相談のってくれはったり、優しい言葉や心強い男らしい言葉かけてくださったり。時にはケンカして家飛び出して、それでも一所懸命坊は僕なんかの事探してくれて。
思い返せば今まで、ホンマに楽しかったな。いろいろあったけど、ホンマに僕は、幸せやった

「……っ、子猫、何言うてんねん…!! お前、詠唱師になるんやろ!俺ん事守るんやろ!三輪家はどないするんや!志摩はどうやって止めぇ言うねん!俺らが羽目外したら、誰が止めてくれるんや……!!

子猫、頼むから…!頼むから、今まで、とか言うなや…!!」


ぽたぽた、ぽたぽた。
坊の涙も、僕の頬にいっぱい落ちて、僕を伝っていく。
――あったかい。
生きてるってあったかいんやね、坊。
祓魔師になるからには、犠牲は絶対なんよ。坊、その犠牲がたまたま僕やっただけなんです。やから、僕の為にそんな、

「…坊は……ホンマに、優しい…ですね…。
……僕の夢は、叶いそうに無いです。…出来たらもっと…坊の側に…志摩さんや、皆と一緒に……居りたかったなぁ…三輪家もきちんと継いで……、皆さんが、立派な…祓魔師なるん、見たかった…。坊、僕は、坊や…志摩さんの側に居れて…幸せでした」

思い残す事は山ほどある。志摩さんや皆に伝えたい事も山ほどある。坊に返さなアカン恩もいっぱいある。……けど、もう遅い。
ホンマはもっとゆっくり、たくさんの時間をかけて、皆と笑って、助け合って、ケンカして、悩んで、遊んでいたかった。
でもな僕、幸せなんよ
今までの事全てが、僕の宝もんなんよ。

「やめ…やめい、そんなん…そんなん言うな!お前も一緒に、立派な祓魔師なるんや!子猫!!子猫丸!!!」

――なんだかもう、坊が何を言ってるのか、どんな顔をしているのかも解らなくなった。体が鉛のように重くなって、息も浅く、少なくなる。
あぁ、僕はもう死んでまうんやろか。
坊、お守りできひんくてすいません。側に居れんで、ホンマにすいません。坊が和尚になるん、近くで見たかったです。今までいろいろ迷惑かけてもて、今まで僕と仲良くしてくれて、

「坊、今まで、ありがとう、ございました…っ!」

目から涙が溢れて、頬を伝う。――まだ、温かい。僕はまだ、生きているんだ。涙が止まらない。何の涙だろうか。幸せの涙だろうか。それとも、

「こ、子猫…!?
っ、子猫丸ぅうううう!!!!!」


最期まで坊と一緒におれたなんて、やっぱり僕は幸せもんやね。


(…坊、堪忍な)



坊の温かい涙と、僕の冷たくなった涙が一緒になって、地面へ滲んでいった。





幸せでした


(二つのものが一つになった、その瞬間、僕は、)


20110814 黒豆



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