人、人、人。
どこを見渡せど、視界に入る全てが人で埋め尽くされている。日本中の人間を集めれば此所県からはみ出すだけでは収まらないほどの多さだろうけれど、ここに居るとまるで、人間はこんなにも存在していたのかと思わせられる。
かろうじで認識出来るのは、人の頭より少し高い所にある赤く光る提灯だとか、そこで何を売っているのかを指し示す文字達など。目線を変えればここに居る人々はほとんど浴衣姿――、だと言う事。
そう、今日は

「今年はどんな花火上がるんやろか…楽しみやわぁ」
「去年はたいそう綺麗でしたね。今年はもっと美しなっとるんちゃうます?」
「せやったらええな。逆に酷なっとったりしてな」
「ハハ、坊言いますね」

年に一度だけの、花火大会。
大規模の花火大会の為、県内はもちろん近県の人達もたくさん集まってくる今日この日。人が多いのは嫌いでは無いがどちらかと言うと苦手な方だ。可愛い浴衣を纏っていたり、露出度の高い服の女の子達がたくさん居るのはこれほど無く素晴らしい事だとは思うが、人口が多いのはやはりいただけない。
そんな中、小さな頃から毎年毎年同じメンバーでここを訪れていたのが、今年になってそれが三人になった。理由は祓魔塾への進学。これによって家族と離れた俺達は、唯一その中で離れなかった――いや、これからも決して離れる事は無いメンバーとして、今年もこの花火大会に訪れていた。

「坊、いか焼き売ってますよ、いか焼き!あそこにはオムそばとたこせんべいが!ぁ、りんごあめの所に俺が好きなイチゴあめが…!しかも三段!これは買わなあきませんよ!」
「志摩…はしゃぐんはええけどほどほどにせぇよ。つぅか、どんだけ食うつもりや…」
「志摩さんは花火より屋台専門やからね。僕は花火見る場所とってきますけど、坊はどないします?志摩さんと屋台まわりしはりますか?」

行きたい店がたくさんありすぎて、あれもこれもと欲張っていると坊にピシャリ、と一喝される。けれど、これは俺の役目のようなものだ。事実、花火を見るのも好きだが屋台をまわる事の方が好きだ。毎年毎年出来るだけ低予算で、とは計算しているがきっとそれは今年も無意味となるだろう。

「俺か?せやな…時間後どんぐらいあるんや」
「後…一時間はあります」
「坊、一緒に屋台まわりましょ!俺一人でブラブラすんの寂しいし、坊は着いてきてくらはりますよね!」
「…あのなぁ、俺はお前の好きな所に着いてく気はさらっさら無い。一人でブラブラしとけ」
「ひ、酷いわ坊!そないな言い方せんでも…」
「志摩さんが悪いんよ。坊がついてくるん当たり前みたいな言い方しはるから」
「うぐ……ほな一人でまわってきますぅ」

一昨年までは俺と坊と子猫さん、そして金兄で屋台を回っていた。後から柔兄達が顔を見せにやってきたりしたが、たいてい毎年同じメンバーで回っていた。金兄になんで着いてくんねん!と俺が牙を向けてもお前らじゃ坊を守れる思えんのや!とかなんだか言ってだいたい一番羽目を外して遊んでいた。そういえば去年は金兄はバンドの仲間で回るとか言って居なかったっけ。あの頭だ、探してもないが結局直ぐに見つけれたような気がする。
今年になってそれが三人になったから、いつも一緒にまわっていた坊は俺と一緒に来てくれると思っていた。が、それはあっさり拒否された。しゅんとしていると、坊がガリガリ頭をかいて、ハァ、とため息をついた。

「…志摩、待て」
「なんですか坊…俺は今から捨てられた子犬のように寂しく屋台巡るんですぅ…これ以上とどめささんといてください…」
「何が子犬や。お前一人で行かせたら女にタカる欲情した雄犬みたいになって他の人らが大迷惑するん目に見えとるから俺が見張っとったる」
「……え、坊、それって」
「勘違いすなよ。俺はお前を見張るんやからな、羽目外したら容赦せんからな」

俺から目線を反らして、少し、顔を赤くして。
…やっぱ、何いうても坊は優しい。いつも俺らの事考えてくれとって。つい嬉しくなって、顔が綻ぶ。

「……坊〜!やっぱり坊は優しいお方やぁ…!」
「コラ、抱き着くな暑苦しい!ほら、さっさと行くで。…ほなそういう事やから子猫、悪いけど……」
「はい、了解しました。ええ場所とっときますね」
「坊、はよ行きましょ!」
「堪忍!有り難うな!ほなまた連絡してくれ!
ええか志摩、羽目外すなよ」
「解ってます!坊こそ縁日に夢中にならんでくださいよ?」
「なぁっ!?俺はそんな子供みたいな事に…」
「坊、ほら射的やってますよ!日本一難しい射的ですて!」
「何処や!行くぞ志摩!」
「ハハ、言わんこっちゃない…後で俺の我が儘も聞いてくださいよー!」

少し前を歩く、少しばかり大きくて目立つ頭をした、そんな温かい人の大きな背中をパタパタと追いかけた。






「……ふふ、志摩さんと行きたいならそう言えば良いのに、坊も素直やないですね」



夏祭りは君と






「…廉造?」
「な、柔兄!?それに金兄も!?何しよんや!?」
「何、て花火見にきてんねやろ。てか、坊お久しぶりです!」
「俺は!?なぁ、一年ぶりに会った可愛え弟やで!?」
「おぉ、柔造に金造、久しぶり。そういや京都の花火大会やし、そら居るはずやな。うっかりしとった」
「俺無視かいな!?坊まで!?」
「にしても坊、髪の毛派手んなりましたね…お母様に怒られるんちゃいますか?廉造はピンクにした写真直ぐ送ってきよったから解りましたけど、」
「…。なぁ、お母、今日居らんよな……?」


「竜士…?」

「ひッ…!」




(俺との屋台まわり、台無しやぁ…)

20110807 黒豆



[ 31/34 ]

[*prev] [next#]

list