ズキリ。
頭が鋭い物に貫かれたように痛む。…まただ。また、やってきた。
ストレスが溜まったり、悩み事が出来たり、はたまた特に何もない時にコイツは急にやってくる。好きな時に訪れ、俺の頭の中を暴れまわり、何事もなかったように帰っていく。しかもコイツはタチが悪く、何の前触れもなく急に襲ってくるし、遺伝だろうが、何故か俺にやってくるのは立っていられないほどの痛みを賄うから、たまったもんじゃない。時々、ホントに極たまにだが、母親を恨む。全く、詠唱中に急にこの頭痛がやってきでもしたら…なんて、考えるだけで背筋が凍った。

ズキリ。
痛みにぐら、と視界が揺れる。足元がぐらつき、バランスを崩した俺は、ちょうど隣を歩く志摩の肩をおもむろに掴んでいた。

「ぅわっ!!?ぼ、坊!?ど、どないしはったんですか…!?」
「…いや、ちょいと石に躓いただけや。スマンな」
「そ、そないですか…?ほなええですけど…」
「あぁ。変な心配かけてスマ……ぐっ」
「坊!!!!」

ズキリ。
あまりの痛みに視界が歪む。これでもかと言うほど鋭い棒でこめかみを貫かれた気がした。志摩の肩をなんとか持っていた手がするりと落ちる。そこまでは、記憶に残っていた。



「……ぅ」
重い瞼をゆっくり上げる。どうやら眠っていたらしい。一番に視界に入ったのは見覚えのない白い空間と、それのせいで際立って見える、限りなくピンクに近い茶髪だった。

「っ!坊!!」
「志……摩…?」
「体調は!?もう大丈夫ですか!?」
「体調……そか、俺…」
「坊、あそこで倒れはったんですよ!ホンマに…心臓押し潰されるか思いましたわ…!お医者さんは偏頭痛や言いましたけど、この頃無理しすぎちゃいます?ちょっとは休んでくださいよ」
志摩は必死な顔で俺を見ていた。放り出されている右手が少し、温かい。

「あぁ…すまんな。有難う」
俺を心底心配してくれてたのだろう。志摩の顔は今までに無いほど安心で満ちていた。ふ、と微笑を浮かべ礼を述べる。そのまま、近くにある志摩の後頭部に右手を添え胸へと引き寄せた。

「わ、ぼ、坊…?!」
「有難うな。ホンマに」
「そ、そんな…お礼言われるような事しとりまへんよ…俺、坊が頭痛いん気付かんかったし、何も」
「心配、してくれとったんやろ?」
「え…?」
「俺の手、ずっと握っとってくれたんやろ?」
志摩の目線が、俺から逸れる。
「そ…それは…」
「志摩の体温、右手によう残っとる。俺が目ぇ覚めるまで、ずっと握っとってくれたんやろ。ホンマ、迷惑かけてスマンな。」
胸の中に埋まった志摩の顔が少しずつだが赤く染まっていく。急な俺の行動に放り出されていた彼の手が、俺の服を強く握った。







心配するのは当たり前




(今だけは、お母に感謝…やな。)


(…俺が心配でいっぱいいっぱいやったん知ってるのに、こうやって優しゅうするなんて、そんなん、

ずるい)



20110730 黒豆




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