最近、どうも良く寝付けない。

その理由はとうに解っているのだが、未だに解決法が見つかっていないのである。

『大輝、大輝!』
「…」
『大輝ーだーいーき』
「…」
『だぁああいぃい「ぁああもううっせぇ!!なんだよ!今何時だと思ってんだ!!寝ろ!」
『大輝が居ない間に寝すぎて眠くないんス』
「どう考えてもそれ自業自得だろ?!俺は疲れてんだよ!」
『だって一人だし、起きててもする事ないんス』
「そ、れはお前何とかしろよ!せめて夜も寝れるようにしろ!」
『大輝が腕枕してくれたら寝れるっスよ!』
「誰がするか!腕に変なダルさ残ってバスケやりにくくなんだろ!」
『じゃあ寝ない!!大輝!遊ぼ!遊ぼうっス!!』
「ちったぁ主人の身を労れ!!こんのバカ犬!!」


…そう。全てはコイツが来てからである。

話をすると長くなるので短くまとめると、『捨てられてた子犬を拾った次の日の朝、どういう訳か人間になってました』だ。いや、本当にどういう魔法が使われてこうなったのか今すぐにでも教えてほしい。こういう空想的な事は、漫画を読みふけってニヤニヤする人達の間にだけ脳内再生されるものだと思っていた。いや、俺だって女の子に猫耳犬耳生えたら可愛いだろうなぁぐらい考えた事はある。だがそれは本当にいる女の子だからこそ意味のあるものであって(省略)。
それゆえ最初はどこの野郎が転がり込んだのかと驚き暴力を振るった(と言っても殴ったり蹴っただけである)ものだが、拾った時にあった左耳の小さな穴と、吸い込まれそうな琥珀の瞳に被さる長い睫毛が現実だと訴えていた。

「…あー、なんで拾っちまったかなあ」

ほんとに今考えると失敗だったと思う。あの時コイツに出会っていなければこんな事にはならなかったのに。
ベタベタと絡んでくるコイツを余所に、寝返りを一つうってタオルケットを被った。

『……っ』
「とりあえず、さっさと寝ろよ。じゃねーと明日飯抜きだから」
『……ばか』
「あ?」
『〜〜大輝のばか!!』
「はぁ!?ちょ、おいリョウ!待て!!」

やっと静かになったかと思えばリョウはいきなり主人に向かって暴言を吐き捨てて、部屋を飛び出していった。
ほんとに何なんだ。とりあえず怒らせてしまった事は確かだろう。本来なら放っておきたいところだが、人間の体に犬の耳と尻尾がついてるような見た目だ。見つかったら何をされるか解らないし、

「…っくそ、」

死んでしまった時のように勝手にいなくられるのだけはごめんだ。

俺はパーカーを一枚羽織ると、行方の解らなくなった犬を探しに外へと出た。












『…あんな言い方しなくても良いのに、』

頭には大輝の言った「なんで拾っちまったかな」という言葉がぐるぐると回る。確かにそんな風に言われてしまう事もたくさんした。今日だって疲れて帰ってきた大輝にワガママ言って迷惑をかけてしまったし、何だかんだ言ってもちゃんと世話してくれている。だから俺は大輝に拾われて良かったし、大輝に出会うために産まれたと言っても過言ではないと思っている。

『大輝、怒ってるかなあ。俺の事きらいになっちゃったかなあ。俺がいなくなって、うれしがってるのかなぁ』

自分で吐き出した言葉が、どんどん自分を殺していく。考えたくないと思っているのに、止まらない。俺はこれからどうやって生きていったらいいのかとか、誰かに拾われて違う生活をするのかとか、拾われなけりゃ餓死とか事故死とかするのかなとか、いろいろな考えが繋がれていく。気付けば目からぼろぼろと涙が零れていた。

『大輝、と離れたくない、』

ぐらりと足がふらついた瞬間、誰かに腕を思いっきり引っ張られた。痛い。触れられたところが、熱い。この熱さを俺は、知っている。

『だい、き』
「…っんのバカ野郎!!!」
『っ、』
「勝手にフラフラ出歩いてんじゃねえよ!!大人しくしとけって何回言ったらわかんだ!!」
『ご、ごめんなさ、』

これでもかというほど大輝は大声で俺を叱りつける。夜中なのに迷惑だぞっていう考えはほんの一瞬しか出てこなくて。ああやっぱり怒ってる。眉間に皺のよった恐ろしい形相を、おどつきながら見つめる。すると、首筋とオデコに小さな水滴が光って見えた。…あれ、大輝汗かいてる…?

「…、ほら、早く帰るぞ」
『は、はいっス』

大輝はほんの少しだけ黙って俺を見つめると、くるりと背を向けた。どうやら俺も一緒に帰って良いらしい。吹いた風と同時に、大輝の汗の匂いがした。じっと耳を澄ますと、少し速くなった心臓の音が聞こえた。


―――走ってきてくれたんだ。



少し前に進んだ大輝が振り返り、何やってんだと言ったのと同時に大輝の元へと駆け出した。







やっぱりあなたが一番


(『大輝大好きっスーー!』
「うお!?やめろ、くっつくな!」)



------キリトリ-------
こんなに長くなる予定はなかった。そしていきなりシリアスになる予定もなかった。この後リョウは腕枕してもらうんでしょうね!!!!匂いと心臓の音が聞こえたのはワンコならではの特技です!!ありがとうございました!


20120821 黒豆

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