じりじりと太陽の光が肌に刺さる。暑い。そこら中から汗が吹き出すようなそんな中、目の前の男は汗一つ流さず、すがすがしい顔で市民の人々に笑っていた。市民の安全を守る為に俺たちは今、街を巡回していた。――いや、正確には巡回を頼まれていた。
巡回する事や市民の皆さんと触れ合う事は苦痛でも何でも無いが、何もこんな暑い日じゃなくても良いのに。

頑張ってください、なんて明るい声をかけられてるのは俺ではなく隣に居る男で、ちら、と目線をそいつに移す。…おかしい。綺麗な顔立ちの上には汗一粒流れてやしない。こいつには汗腺ってものが無いのか。

「…なぁバニーちゃん、暑くないの?」
「?全然平気ですよ、この位」

やっぱり変に思って声をかけてみると、僕は寒がりな体質なので、とこの男…バーナビーと言う俺の、兼仕事での相棒はいつものように適当な笑顔を浮かべた。この環境じゃいくらなんでも暑いだろう、と少し疑惑の雲を浮かべてみたが、あながち嘘では無さそうで。そんなコイツの爽やかな横顔を見ていると、まるでこんなに汗だくな俺がおかしいのか、という錯覚に陥る。
つう、背中に汗が流れるのが解る。気持ちが悪い。今すぐ帰ってシャワーを浴びたい、そうとも言うように俺は眉間に皺を寄せた。

「なぁ、もう帰ろうぜー…。おじさん疲れちゃった」
「都合良いときだけ自分をおじさん扱いしないでくださいよ。ヒーローがそんな顔しててどうするんですか」

そう横に居るバーナビーが俺に言い放ち、仕事なんですから疲れるのも当たり前です、と市民に気付かれないように俺に向けて呆れた顔をした。そして、直ぐに歓声と共に元の笑顔に戻る。そんな、他人にばかり笑っているバーナビーに変な苛立ちを覚えた。ああ、ほら、また笑って、手を振って、握手を交わして。俺には見向きもしないで、ほら、また。
ぐる、黒い何かが胸の中で渦巻く。この気持ちはよく知っている。――…嫉妬、だ。…醜い。見ていられなくて、バーナビーから目を反らす。
するとそれに気付いてしまったのか、小さく息を吐いた後、休憩しますか、というもう聞き慣れた声が俺の耳に届いた。




それでも休憩を



(…あんまり他の人に笑うなって言ってんの、)


20110827 黒豆




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