しとしとと、雨が降り続く今日この頃。世間一般的に言うと、つい先日から梅雨に入ったらしい。縁側から、降り止まない様子の雨を見てため息をつく。

雨は嫌いでは無いが、こうも長くじとじとと続かれては流石に嫌気がさしてくる。朝から晩まで薄暗く、今が何時だか全く判断が出来ない。家を支える木柱が湿気を含んで独特な匂いを発し、歩く度に高い声をあげる床も今日ばかりは低く唸っていた。

トントンと床を歩くと、自分のものではないもう一つの誰かの足跡が追いかけてくるのが聞こえる。足跡を消すような、こんな歩き方をする人物は知っている限り一人しか居ない。
す、と立ち止まって振り返ってみればそこに居たのはやはり、ピンク色をした頭の持ち主だった。


「わ、声かけてへんのに気付いてくれはるなんて…流石和尚様」
「お前は足音消すクセついとるから、誰かぐらいすぐ解る」
「俺そんなクセありましたん?気にした事ありまへんでしたわ…和尚様がドスドス音たてはるんは知ってましたけど」
「…さりげなく挑発しとんか、志摩?」
「ひぃ、すいまへん、してまへん!許してください〜!」
「…。にしてもどないしたんや、後ろ着いてきて。何かあったんか?」
「あ、いや、特に用事はありまへん。追いかけてきたんは、ただ和尚様の姿見えたからどす」

にへら。
昔と何一つ変わらないその笑顔で志摩は笑いかけてくる。
今、志摩が言った言葉に偽りは無い。俺は直感的にそう感じ取った。

「なん、それ」

少し困ったような、そんな顔で志摩を見てやれば だって、と拗ねたように返答してくる。


「出来るだけ和尚様の傍に居りたいんやもん」



ほのかに顔を赤く染めて目線を泳がす志摩にどうしようもなくなって、彼の体をぐい、と抱き寄せた。




アザレアの抱擁


(貴方に愛されて俺はただ、幸せなんだ。)



20111108 黒豆
         <祓!>

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