ゴトリ。静かな空間に物が落ちる。頭の中に描かれたたった一本の蝋燭の火がふっ、と途絶えた。ゆっくり目を開ける。暗闇の中、円形に置かれた小さな灯籠達に囲まれ座禅を組んでいた俺は、集中に余韻を残すようにそのまま数回瞬きをする。
そんなの俺の、集中が途切れたサマに気付いたのか、俺の背中側で何かを落としてからぴくりとも動かない人物はしまった、と言わんばかりのおどおどとした声音で言葉を発した。

「…す、すんまへん!」

わたわたと慌て、思いっきり頭を上げ下げする男――志摩は手のひらをくっ付けては離し、バタバタと動かす。何やらジェスチャーをして説明をしようとしているのだろうが、俺に謝罪をする事でいっぱいいっぱいのようだ。そんな志摩を見て少し、笑みが漏れる。
点いていた灯籠の灯を消し、部屋の電気をつける。暗闇にいたせいか、いきなりの光に目がチカチカした。

「いや、構へん。…そない謝られても困るし、ただ心落ち着けとっただけやし」
「や、でも集中の邪魔してしもうたんは事実ですから、」
「ええって。何も今やらんでもええ事やし。…それより、なんやそれ?」

放っておけばこの、許し謝りの会話が永遠と続くだろうと俺は察し少し前から気になっていた話を切り出した。先ほど志摩が落としたらしい両手のひらぐらいの大きさの木箱に目線を落とす。

俺のいるこの部屋には、見えはしないが強力な悪魔がたくさん潜んでおり、常人が足を踏み入れれば一発で憑依されるか喰われてしまう。俺ら祓魔師でさえ精神を整えていなければ危ういような、そんな場所だ。
明蛇に携わっている者の中でもここに最も長く居られるのは座主である俺だけで、志摩家筆頭であり何に関しても良く出来る柔造でさえそう長くは居られない。そんな所に、おそらく明蛇の中で二番目に精神の崩れやすい志摩は何の為に何を持って来たのか。

相手の身を考え、この部屋から出ようと志摩の近くまで足を早める。じりじりと距離を縮めると、まるで俺を拒否するかのように志摩は後ずさっていく。

「…なんや、何で逃げるんや」
「え、いや、あの」
「なん」
「っ、な、何でも無いですえ!気にしはらんとってください!」
「気にすんな言われて気にせぇへんやつがおるか」
「いや、これはホンマに、ホンマに忘れてくださ、」
「嫌や」
「ひぃいっ!」

ズカズカと志摩に近付いていくと、俺と一定の距離が保たれていた為か志摩は自然と部屋から出た。彼の安全の確保が完了した事を頭の隅で認識し、未だ答えの出ていない疑問を投げ掛ける。ずりずりと後退し続けた志摩の背中はどん、と廊下の柵にぶつかった。逃げ場が無くなる。

「それが何なんかと、何で俺から逃げるんか答ええ」
「え、と、それは、」
「はよ言え」
「…っ、お、和尚様の」

そこまで言うと志摩はやっぱり恥ずかしゅうて言えまへん!とほのかに赤らんだ顔を思いっきり左右に振った。
俺の、なんやねん。言われへんてどういう事や。
何かムッとして、志摩の背中に隠される木箱を力ずくで奪いとろうとする。それに志摩も「あきまへん!」と必死に抵抗していたが、ぐ、と力を入れた瞬間 手に触れていた木の感触が無くなった。

「「あ」」

カラン、と音をたてて木箱が落ちる。それと同時に飛び出た中身。キン、キンと高い金属音をたてながら廊下を飛び回る小さな丸いそれ。志摩が必死に追いかける。

……なん、あれ。あれは、確か俺が高校の時に志摩にあげた、




大切なものほど隠し通したい



(第2ボタン、やん)




20110919 黒豆
いや、なんだろう意味が解らなくなってしまった。ほら、つまり廉造は大切だから見つからないような所に隠したくて、普通は人が立ち入らないような場所に持って行ったけど偶然勝呂君が居て、驚きと同時に雰囲気に見惚れてしまって手から落としちゃったんですよ!ね!
…っていう後からの弁解。言わなきゃ内容伝わらないような話書くなよ、自分。
(実は木箱はただのキッカケにしようと思ってたのに内容変わっちゃって、中身を何にしようか二時間ほど悩みました)

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