一回目の対面から数日後、また俺は謙也さんのおる病院へと訪れた。
気の利いた花や果物はガキの俺には用意できる訳もなく、部活帰りの手ぶらな冗談で病室へと向かった。
途中、もしも病室に謙也さん以外の見舞いに来た人がいたらどうしようかと、しかもそれが部長ならばと要らない考えが入り混じるがあの部長に、こそこそ隠れて考えて企んでいる方が一発でばれてしまうと考え、この考えを一旦しまい込んだ。
病室の前まで来ると
「こんにちは」
扉を開けたら欠伸をしていた途中の謙也さんがいて、目があった。
「あ、財前やん」
「見舞いに来ました」
「それ以外やったら何の用があるっちゅーねん」
怪訝そうな顔をする謙也さんに、前みたいに謙也さんと喋っていた感じに返した。
「先輩いじり」
それはそれは簡潔に。
「本気で言うとんのか」
眉を潜めた謙也さん。こういう反応は記憶が無くなる前と変わってへん。
少し安心した俺がいた。
「半分くらい」
「財前のいじるっちゅーんは、タチ悪そうやわ」
「どういう意味っすか」
「そのまんま」
「……」
少し悩んだ、以前だったらどつくなり睨むなり蹴るなりしていたが、目の前に居るのが例え謙也さんと言えど病人。
一応の常識は弁えているつもりだ。
だから、
「いひゃい、いひゃい!」
謙也さんの柔らかい頬を抓った。
「謝罪」
「ほへんなはい」
素直な所も変わらない。
「しゃーないから、離したりますわ」
「ほんまに痛かったんやけど」
痛そうに頬を手で摩る謙也さんを横目で見た。
一応、手加減したつもりだったのだが、ミスったらしい。
「気のせいっすわ」
「……最近、部活どうなん」
大分間を開けてから、怖ず怖ずと問い掛けてきた。俺らと喋るのに、距離を開けなくなってきたがイマイチ謙也さんは、自分から学校の事や自分の事を聞くのに少々抵抗があるらしい。
「めっちゃ気合い入っとりますよ、皆」
「そか。ええなぁ…」
「退院したらやりまへんか?テニス」
「ええのん?」
「もちろん」
アンタなら、喜んで。
やりたくてしゃあないねん、前みたくダブルスは出来んくても、アンタと何か、いやテニスをする事に意味があんねんから。
「よっしゃ、楽しみになってきたで」
「そん時はこてんぱんにしたりますわ、先輩を」
冗談に決まってる。
「先輩思いの後輩になりや」
「嫌っすわ」
多分ずっとアンタに素直になれる日は、そうそう無いと自分でも思う。
それを後悔した数なんて、数えきれないけれど。
「でも、めっちゃ楽しみにしてますから」
「…え?」
「ほんなら、またいつか」
いつか、好きって言っても罪にはならないだろうか?
少し以前の謙也さんと今の謙也さんを比べている俺が、そこには居て、死ぬほど吐き気がした。
どんなアンタだって、好きな筈なのに。
いったい、なんだってんだろう。
でも、奪い返す。今だけしか、そんな機会はないのだから。
違和感
10/11/08
四ヶ月も放置してしまった…
この後の展開に非常に悩む…