どたどたと騒がしい音で目を覚ました。
今日は日曜日。
世の学生なら、部活の練習か休日を楽しんでいるだろう。
けれど、残念なことながらベッドからさよなら出来ない俺は、けっこうな時間の間寝ていた。
ちゅんちゅんと鳴く小鳥のさえずりや、医者や看護婦などが起こすわけでもなく、病院ではありえないような大声と足音、プラスそれを制止するような声が耳に響き目が覚め、起きた。
「けーんーやー!!」
「止まれや…!」
びくりと肩が揺れた。
まさかの呼ばれた名が自分なのだから、当然。
身構えても仕方ないため、上体を起こして彼らを待った。
足音が徐々に近づいて、ピタリと止まることなく物凄い音をたてながら病室のドアが開いた。
そこから見えたのは、身長の低いやんちゃそうな赤髪の少年と、いかにも不良そうな黒髪でピアスをつけている少年。
記憶のあった頃の自分自身に、色々と問い掛けたくなったのは、言うまでもない。
「おった!!」
「おった、やないわ!どアホ!」
黒髪の少年は赤髪の少年の頭を叩いた。
いや、殴ったにも等しいくらいの力で。
「痛ったー…何すんねん財前!」
「遠山が病室で騒がしいからやろ…!」
赤髪の少年は遠山と言うらしい。
黒髪の少年は財前、と言うらしい。
財前と言う少年に、頷けたのは言わずもがな。
俺でも、多分それに等しいことをしている気がする。
「あー…お取り込み中悪いんやけど、自分ら誰なん?」
「記憶ほんまに無いんスね…。俺は謙也さんと同じ部活の後輩、財前光言います」
「え、なんでほんまにワイの事覚えてへんの?!」
「チッ。昨日、部長が教えてくれたばっかやろ」
「せやかて、信じられへんもん」
財前光、というのが彼のフルネームらしい。
財前という少年は、面倒なので財前君と呼ぶことにしよう。
よくよく見てみると彼らはラケットバックを背負っていた。
記憶の隅っこでも、白石もラケットバックを背負っていた気がする。
部長というのは誰だか知らない、けれど白石と彼らが知り合いな可能性は大きいだろうと思っていた。
どちらにせよ、素直で直球な遠山君に、罪悪感は感じた。
「ごめんなぁ…遠山君」
「謙也さんが謝る事は、あらへん。遠山、謝りや」
「いひゃい!…ごめんなさい。ちゅーか、遠山君はイヤや!前みたいに、金ちゃんがええ」
「ええよ。…ちゅーか金ちゃん?」
「遠山金太郎、せやからそのあだ名なん」
キッと財前君が遠山君を睨んだ。
素直に謝る遠山君に、悪い印象は持たなかった。でも、前みたいに、という言葉にたじろいでしまった。
悪気はないだろうから、何も言わない。けれど、俺が言わないからなのか財前君は遠山君の頬を摘んだ。
遠山金太郎、どこかで聞いた気がするが、愛着の持てる名前で金ちゃんの方が彼にあっていて確かに良い。
「金ちゃんな、よろしゅうな。金ちゃん、財前君」
「おん!」
「財前でええですわ、謙也さんの方が先輩なんで」
「財前、な。なんや、よぉこの会話するな」
「誰としてはったんすか?」
「白石っちゅー、イケメン」
思ったことを言ったまでだ。
白石は眉目秀麗で、何やら眩しい。
爽やかに笑みを浮かべる表情なんて、そこら辺のアイドルより二回りほど、カッコイイんではないか。
あれがクラスメートで、友達だったなら尚更。
「あ、ああ。部長の事やったんですか」
「一番はやっぱ白石やったんやな!」
「は?」
「何でもないですわ」
「なら、ええねんけど」
妙に納得している様子の、…金ちゃんに向かって素っ頓狂な声を出してしまった。
それから口を閉じもう一度、金ちゃんに聞こうとすれば…財前が、言わせまいと言葉を遮った。
何となく、聞いてはいけない気がした。
コバルトブルーに沈んでいく
10/05/02