さよならと彼は僕に告げた


ある日のこと雨が降っていて、部活帰りの道を誰かと歩いていた。
誰かは、何故か思い出せない。
親しいやつなのか、それとも家族なのか親戚なのか、はたまた嫌いなやつなのか。
分からない、ただ置き傘をしていた俺は窮屈な折りたたみ傘に体をしまい込んでいた。
その中で帰っていた、もちろん帰る途中に赤信号で待つことがあった。
けれど、赤信号にも関わらずボールを取りに行くために道路に飛び出した…多分、この経緯から行くと子供を咄嗟に見た。
周りはざわめいた、親は居ないらしい。
ありがちだが車が近づいていた。
俺は、体が勝手に動いた。
折りたたみ傘を投げ出して、誰かの静止の声も聞かずに道路に子供を助けるために道路に飛び出した。
子供を押し出してそれで安心したせいで気が緩み足が止まってしまった。

その瞬間、誰かの叫び声が聞こえた。
それを聞いて振り向こうとした時、多分車がぶつかって、鈍痛が体中に走り回りおかしなくらい体がふわりと浮かんだ。

そこで俺の記憶はぷつりと途切れる。




****


焦った、違う…正しくは焦っている。
それと、悔やんでいる。部活帰りの帰る途中、謙也は小さな子供を庇って車に轢かれた。
それで謙也は医者の息子ということで謙也の親父さんが経営してる病院に運ばれ今さっき、謙也の親父さんに一命を取り留めた、そう俺に告げた。
俺のせいじゃない、自分を責めるな…そう言われた、けど無理や。
お互いに好いとったやつを事故を止められんかった、目の前でただ呆然としている事しかできなかった。
何かやったといえば、車のナンバープレートを覚えていただけ。
そのことを警察に伝えただけ。そのあとは、知らない。分からない。


「…白石くん、謙也意識取り戻したみたいやけど、会うてみるか?」

「あ、…はい」

「でも、もしかしたら後悔するかも、しれへんのや」

「どういう意味です?」

なれない標準語の敬語がつらつらと口から出る。本当に謙也の親父さんの言うとる意味が分からへんのや。

「もしもだから会うてから、や。それでも、えぇんやな?」

「はい」

きちんとした、はっきりとした言葉で目を見て言うた。
そしたら、謙也の親父さんは謙也の居る病室のドアをゆっくりと開けた。ドアを開けた時、形容しがたい音を鳴らしながら。
俺は唾を飲み込んだ。
意味が分からなかった、けれど良い意味ではない、それだけは頭の隅っこで理解していた。

完全にドアが開くと、痛々しく頭に包帯を巻いた、いかにも痛んでいる金髪の謙也が居った。
もちろん扉が開いたせいで意識がこちらに向いたのであろう、こっちを見ていた。
でも、謙也は俺らの方を見て頭上にクエスチョンマークを三つ四つ浮かばせていた。
何に不思議がっているのか理解していないのか、頭では理解していないのに頭の中ではサイレンが鳴り響いていた。
これから起きる出来事は、幸せではないかもしれない、と。







「あの、申し訳ないんやけど…どちらさん、ですか?」

「?!」

言葉が出なかった、出て来なかった。
けれど俺の頭は嫌でも切り替えが出来たらしく、頭の中に今から言おうとしている台詞が浮かぶ。
でも、その台詞は謙也の中に俺という存在が無いということにも繋がり、それを認めることになる。
のに、俺の口は謙也に告げていた。
君と俺は、初めて会った人だよと。

「はじめまして。俺は…白石蔵ノ介言うん」
「は、はじめまして」




はじめまして、なんて本当は認めたくなかったけれど。


さよならと彼は僕に告げた






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連載開始しました!
シリアスぶっ通しじゃないのでご安心を!
ギャグも入れたいと思ってます。
暖かい目で見守ってやって下さいな。

10/03/09

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