俺はずっと、人生が長かろうが短ろうが叶わない恋をしていた。
この恋に気が付いたのは中学二年生の時のこと。
そして、その恋をした相手と出会ったのは中学一年生の入学式のこと。
入学式の時、大した事ではないと思っていたのに、予想以上に周りがざわざわと騒ぎ立てていた。
自分が思うよりも知名度が高く、髪の色も特殊なのも手伝ってか校門に入ってからずっとひそひそと話されていた。
勿論、気分は宜しい訳がない。
「面倒…やな」
そう小さく呟いた時、俺の肩にポンと手が置かれた。振り向いてみると、
「なぁ!君、白石蔵ノ介君やろ?」
金色に髪を染めている男子生徒が目の前にいた。
胸にある花が俺と同じ一年生なのが分かった。
ただ問題なのは、もし目の前が不良の部類の奴らならもっと面倒だ。
入学そうそう、俺の完璧な中学校生活が破壊される。
そう思った。
「俺、忍足って言うねん。白石君ってテニス上手いんやろ?俺もテニスやってんねん。せやから、宜しゅう!ほなな!」
そう言って、素晴らしい脚力で体育館の方向へと走っていった。
まず俺は肯定もしていないし、まさかテニス部に入りたいと大声で叫んだ訳でもない。それなのに、一人でべらべらと喋り風のように行ってしまった。
あんなに早いならテニス部ではなく、陸上部に入れば良いのに。
たしか、忍足君だったか。あそこまで目立つ髪だ、簡単に忘れなさそうだ。
嵐が過ぎ去ったような、そんな気もした。
***
「はぁ…」
それから、部活も同じになりクラスは三年間一緒という奇跡を成し遂げた。その間、自分でも気が付かない間にどんどんと謙也に惹かれていった。その三年間一緒という奇跡は片思い中の俺にとって、傍に居る事が可能。それは嬉しい事実には変わらない。
けれど、叶わない。
この恋が成就なんてありえない。
何度か耳にしたことがある。謙也は誰かが好きなんだと。
俺は謙也が幸せならそれで良い。
女の子が嫌いな訳じゃない、謙也以外の男性が好きなんじゃない。謙也が好き。
だからこそ、幸せを願う。
前に謙也が俺に言った。
白石ならどんな奴でも、振り向くんだろう。
それが本当なら良いのに。俺が卑怯な手を使ったり、振り向かせる勇気があったなら、可能かもしれない。
俺は臆病者だ。今の、友達という位置関係を壊したくなくて、バレることを恐れて、いつも怯えている。
「…白石君?」
「え?」
いつの間にか、考えに耽っていた俺は目の前にちょこんと居る可愛い部類に入るであろう女子に気がつかなかった。
何だか、もじもじしている。顔も赤い。
…またか。
「あの、うちの話聞いてもらっても、ええ?」
「…ええよ。手短にな」
そう言った彼女は告白スポットの定番である校舎の裏に来た。
何度、来た事だろうか。
返事はいつもお決まりの言葉を紡ぐ。
ゴメン、と。
俯きながら彼女はきゅっと拳を握って、小さな声で、それでも確かに俺にはっきりと伝えようとしていた。
「あのな、一年生の頃から憧れててん、ほんで…。前から、好きやねんっ。付き合うて…ほしい」
「ありがとう」
そう言うと俯いていた女子はぱっと顔を上げた。
ゴメン、ゴメン、その言葉が頭にぐるぐると、はいずり回る。
「でも、応えられへん。ゴメン」
「何で…なん。好きな人おるん?」
「…おん」
俺の言葉を聞いて大きな目から零れ落ちそうな涙を制服の裾で拭うと、走って何処かに走っていってしまった。
「また、フったん?」
先程の彼女とは違い、変声期を終えた男の声がした。
好きな相手の声を聞き間違えるはずがない。
「謙也か。どないしたん?」
「いーや。たまたま現場に出くわしただけや」
「そか…」
「「…………」」
お互い気まずくなって、それ以上の言葉は見付からなかった。
どうしてだか、いつもみたく上手い言葉が何一つ出て来やしない。
謙也の顔を真っ直ぐと見つめることも出来ない。
「好きな相手って、…誰?」
先に沈黙を破ったのは謙也だった。
でも、内容は酷なモノだった。
正直に答えていいのか。
そしたら、はっきりする。
謙也からの肯定の言葉なんて、端から期待していない。
今の位置関係が崩れてしまう。
けれど、すっきりするだろう。もやもやと胸の中で渦巻く思いが消え去る気がする。
「…何で、そないな事」
「ほら、白石ってモテるやん?皆、可愛ええんにフってるから、誰が好きなんか気になるやんか」
「じゃあ、謙也が教えてくれたら、言う」
目をかっと見開いた謙也の姿が瞳に映る。
「……好き、な相手は…」
「おん」
「…ずっと一緒やってん。頭良くて、綺麗で、俺からしたら、…眩しかった」
「おん…」
震えるような声で謙也が答えていく。聞かなければ良かったと今更後悔した。
好きな相手を聞いた時点でフラれてるのに、俺はそれから告白するのだ。
馬鹿な真似をした。
知らないままの方が良かった。
「白石、」
「何や?」
「何や、やなくて!好きな相手は、…白石やねん」
「…は?」
「ゴメン、キモいわな。全部、忘れてや…っ」
嘘だ。
俺は夢を見ているに違いない。
こんな都合よい事が起きるなんて、夢だ。
そうじゃなければ、謙也は俺を好きだと言うはずがない。
ありえない。
でも、泣いている謙也が、それを本当なんだと伝える。
俺の手は謙也を引き寄せて抱きしめていいのか、そんな判断もせずに自慢の足で逃げようとする謙也を抱き寄せて力強く抱きしめていた。
「…ッ!ゴメンっ、迷惑なんは分かっとる。せやから離してやっ」
「無理や、泣いとるんに」
「…惨めやんか、フラれたんに抱きしめられてんなんて」
「ゴメン、好きやねん。謙也が」
「嘘や!…ありえへん」
「ほんま、嘘やない」
俺だって、信じられない。
夢じゃない。
俺の腕の中に収まっている謙也も、涙を零している謙也も、謙也から伝わる暖かい体温も。
全部、現実だ。
「好きや、めっちゃ」
もう、君の事を離さない。
どうか君も離さないでいて。
ハロー、マイラバー*********
相変わらずの駄文で、申し訳ありません!
801な話に…。こんなので良ければ受けとって下さい。
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10年12月18日UP