やっと、目的の駅へと着けば我が姉を捜した。
道中、顔も名前も知らない女性に声を何度もかけられた。
いわゆる逆ナンとやらを。
人通りが多い駅には、流石の自分の姉弟でも捜すのは一苦労。
だったのだが、ミニスカートで足を大胆にも晒し、今時の女の子な感じな姉が大きく手を振りながら、
「くーらー!!」
「今行くっちゅーねん!」
そないに大きな声で叫ばれても困る。
視線が俺に突き刺さるのを感じ姉に向かって走り出した。
ただでさえ、目立つような行動を街中では避けているのに。
これでは、俺は此処に居る!…とでも、主張しているのと同じだ。
そう心の中でぶつくさ呟きながら姉の元へと、たどり着いた。
「走るの、相変わらず速いねんなぁ」
他人事のように、言う姉に溜め息をついた。
「…走らせとんのは何処のどいつか解ってるん?姉さん」
「解っとるで!うちのせいやろ?」
「ほなら…」
「せやかて、弟の困る面っておもろいんやもん」
姉妹揃ってこれだ、女系家族に生まれた俺の災難だろうか。
「あほ、ンで謙也君て…」
「うちの足元にしがみついとる子」
「あ、」
そう姉に言われて視線を下に移した。姉のほっそりとした足にぎゅっとしがみついている、たしか6歳くらいの男の子。
歳など正確に覚えていないが、くりくりとした大きな瞳に、くせっ毛の黒髪。
じっと俺の方を睨むようにして見ている。
「こんにちは、謙也君」
「……」
「謙也、挨拶しいや」
「…こんにちは、おじさん」
「あは、はは…」
18歳にして、おじさんデビューとは…案外、心臓に鋭利なモノがぶっ刺さった。
ブロークンハートやで、なんてそないに気にしてへんけど。
とは言っても中学二年生でおじさんデビューをした、財前より数倍もマシだろうが。
「謙也、おじさんちゃうで。蔵ノ介兄ちゃんて呼びや」
「くら…にぃ?」
幼い謙也君には、俺の名前は少々長ったらしいらしく、省略された。
小さい子に、首を傾げながらこう言われて、ズッキュンとこないヤツは居ないだろう。
正直に言うと、めちゃくちゃ可愛え。
「蔵ノ介、それじゃあ一週間宜しく頼むで?」
「おう、姉さんも気ぃつけてや」
「母さん、帰るん…?」
「せや、大人しゅうして、お利口サンにするんやで」
「おん!」
そう言って、謙也君の頭を慈しむように撫でる姉さんは、本当に母親なのだと実感する。
少し、寂しそうに拳をぎゅっと握る謙也君に視線を下げ、手を差し出せば母親に弱みを見せたくない男の子故の意地なのか、俺の手をぎゅっと小さな手で握りしめながら、姉さんへと笑顔のまま。
それに応えるように握りかえした。
「それじゃあ、バイバイ」
「バイバイ…!」
最後まで俺の手を力強く握る謙也君に微笑浮かべながら、謙也君は姉さんが見えなくなるまで手を精一杯振っていた。
見えなくなれば、パッと手を離し、小生意気にも俺にこう言った。
「今日から、いっしゅーかん、オレがくらにぃと遊んだるわ!」
「ハハ…よろしゅうな、謙也君」
(続く)