何なんだ、この状況は。
この言葉くらいしか、思い浮かばないのだから、仕方ない。
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遡ること、約40分前。
俺は、部室で着替えていた時にやけに、にこやかな小春に渡された小瓶と睨めっこしていた。
今日は、謙也が俺の家にへと泊まりに来ていて、その謙也は風呂に浸かっている。
喜ばしいことでありながら、実にソワソワしている。
目の前のテーブルの上にあるマグカップに入った、ココアと小瓶を交互に見る。
たしか小春に、
『今日、謙也君に試してみて?おもろい事になるで』
こう耳打ちされたのだ。
半信半疑でも気にならない、わけがないのだ。
時計を見上げると、そろそろ謙也が上がって来そうな頃合い。
俺は意を決して、小瓶の蓋を開け、ココアの中に言葉では表現しにくい色をした液体を、一滴残らず注ぎ入れ混ぜた。
これが事の原因になるなんて、知りもせずに。
謙也が戻ってくると、素知らぬ顔で、俺も風呂に入った。
「ココア入れといたさかい、飲んで待っといてや」
と付け加えて。
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ゆっくりと風呂に浸かり、体を洗い流すと、タオルで体や髪を拭き、寝間着に着替えると自室へと向かう。心なしか、歩調は早くなる。
そして、自室が目の前で来ると足を止め、息を呑む。
なに、もしかして何もなかったというのも一つのオチ。
けれど、妙に部屋が静かなのは気になるが、寝ている可能性だって十二分にあるのだから。
とにもかくにも、入らなければ埒があかない。
イコール、自室に突入した。
かちゃりと何処でも聞くような音をたて、扉を開けた。
「「白石!」」
「……は?」
この展開は、何だろう。心臓には悪いは、科学的に有り得ない。
のにも、拘わらず彼等…謙也は、二人いるのだ。
なんのマジックなのか、だとすれば種だってあるのに。
「白石!コレ、どういう事やねん!」
「せや!なんで俺が二人おんねん!」
「え…ちょ、待ってや!俺にもよう分からへんのやわ」
「白石の用意したココアを飲んで…、数分経ったら」
「こうなってたんや!」
「あ゙ー…」
覚えがある。
そりゃそうだ。
多分、いや絶対に、この原因は俺なんやから。
じりじりと近寄る彼等に、俺は後ろに下がった。
少し痛んだふわふわとした金髪で…全く同じ様子で詰め寄る彼等。
それを見て、可愛いなどと場に合わないことを、頭の端っこで考えながらどう説明するかと頭を切り替えた。
「あんな、その原因は…」
「「どうせ、白石やろ」」
元が一人だったからなのか、あたかも双子のようにピッタリと言葉が揃う彼等。
意外にも、心に鋭利な何かがブスリと刺さる。
「なんで息がそこで合うねん!!」
「「自分以外に誰がおんねん!」」
「俺、拗ねてまう…」
床にのの字を指先で描き、ふざけたように言う、俺。
「すればええやん」
「せや」
なんやねん、元は一つやからって…そないに俺のこと虐めへんでも。
俺、Mちゃうから、マゾちゃうから…むしろ謙也限定のSやし。
せやから、そないな言葉責めされても…あ、謙也限定で…嫌や。
やっぱ、今の無し。
「謙也たちは、俺が嫌いなん?」
そう言って、謙也たちに怖ず怖ずと問い掛ける。
問い掛ける内容はいたって真面目な、嫌いなんて言われたら俺の将来は、お先真っ黒。
「え…」
「ゔ…」
ぎゃあぎゃあと騒いでいた威勢は何処へやら、ぴたりと動きを止め困ったように戸惑う二人の表情を見て、追い打ちをかけるように、もう一度問い掛ける。
「嫌か?」
「ちゃ…、ちゃうけど」
「俺かて、嫌いやない…」
安心した。
嫌いと言われない自信は正直に言えばあった。
俺はどんな謙也でも謙也に変わりはないのだから、好きで、愛してる。
ついでに言ってしまえば、世界の誰よりも。
「ちゅーか、そいつ言いよるより、好きやし」
「んなっ、…ちゃうわ!俺かて負けへん!」
「は?え、ちょ」
聖書と呼ばれる流石の俺でも、夢のようなこんな展開に戸惑いを隠せない。
夢のような展開とは言っても、うかうかと喜んでいる場合ではない。
「「白石はどっちが好きなん?!」」
ほら来た。
なんとも謙也の脳内らしい、お約束な展開。
「選べるわけないっちゅーねん!」
当たり前だ。
彼等はどちらも謙也で、どちらかが謙也じゃない、なんて事はない。
少し前にも言った通り、俺は謙也が好き。
だから、どちか一方を選ぶ事なんて天地がひっくり返ろうとも、出来やしないのだから。
「俺は謙也が好きなんや。せやから二人共、謙也やん?選ぶ事なんて出来ひん」
「「……」」
黙る二人にしてやったりと孤を描くように、笑みを浮かべる。
そして、手をのばし柔らかい二人の髪を撫でる。
くすぐったそうにする姿も、嫌がらない態度も、全てに愛しさを感じるだなんて末期だと自分でも思う。
「ほなら、寝よか」
と、時計を見上げて提案する。
「どないすんねん」
「白石のベッドと、布団一組しかあらへん」
言われてみれば。
俺が一人布団に寝て、二人がベッドに寝る、っちゅーのもええ。
けど、今日は謙也が二人おるっちゅー普通ではありえへん、俺がもたらした事。
「もういっそ、三人一緒に寝てまえばええやん」
「何で、そないな考えになんねん」
「理解できへん」
ふるふると、首を横に振るように否定を示す二人。
予想はしとったけど。
「ええやんか、今日だけやで。こんな日」
「「仕方ない…んかな」」
「お?」
これまた珍しい、デレたんかよぉ分からへんのやけど。
食いつくてまった。
「「今日だけやからな!」」
ピッタリと何度目だか、揃う二人。
「おー」
そう言って一人ベッドに入り、真ん中に俺、また端っこに一人。
「せっま」
「俺、落ちそうやわ…」
正直な感想を述べる二人、少し大きめなはずのベッドがこんなにも狭いだなんて思いもよらなかった。
「落ちないように、二人共、腰に腕回しとこか?」
「「断る」」
「はは、言うと思たわ。…それじゃ、おやすみ」
上体を起こし電気を消し、またベッドに戻る。
寝明かりだけになると二人の頬に口づけを落とし、へにゃりと笑う二人に胸が幸福でいっぱいになる。
狭いベッドのため、謙也たちは自然と俺に密着する形になる。
「「おやすみ」」
謙也たちは瞼を降ろし、疲労が手伝い数分経てば寝息をたてていた。
出来るだけ落ちないようにと、謙也たちの肩を抱き寄せ、さてと俺は寝れるのだろうかと心配な点が浮かび上がったのは言うまでもない。
睡眠不足*********
相変わらずの駄文で、すみません!
さくら様のみ、お持ち帰り返品可。
10年05月16日UP