真を語るは宵の夢

※パロ
仁王は庶民、謙也は坊ちゃん
差別





まず、気になった理由その一は俺と正反対な所。その二、出会い方がおかしかった。
その三、何かに惹かれた。


路地裏をほっつき歩いていた俺に、全くと言って良いほど見覚えのない男が近寄ってきた。

「何か用か?」
「異質な髪の奴ってコイツか?」
「は、また同じような奴ばっかじゃの」

相手の顔をきちんと見てハッとほくそ笑んでやった。そしたら、俺の表情が気に食わなかったのか殴ってきやがった。
もちろん、相手が男だったから多少は痛かった。
好きでこの髪色になった訳ではないし、もちろん好いてもいない。
なのに町中の奴らは口を揃えて「異端児」と俺を呼ぶ。
幼い頃に意味さえも理解できていないまま町をぶらぶらと歩いていたら俺より小さな子供が俺を指差して、

「かあさんかあさん、アレがいたんじ?」
「…え、えぇ。さぁ、行きましょ」

まるで見てはいけないみたいに、別に俺は見ただけで石になるメデューサでもなければ魔女でもない、恐ろしい化け物でもない。
それなのに、髪色が違うだけでコレだ。
世の中、終わってる。何が常識で何が常識でないのか、まず常識というのは何処から何処までなのか。これは十人十色の答えが出る。
そう、ならば俺に優しい言葉を掛けてくれる人はいる…と思いたかったが結局は妄想で終わってしまった。

幼い頃にコレは、バキバキとお世辞にも綺麗な崩れ方でもなく、唯どん底に落としめされるような感覚を感じた。
とりあえず、自分達とは何かが違うだけで同じ人間には見えなくて、尚且つ受け入れてはくれない。たとえ、肉親だとしていても。

「何じゃ、俺は何もしとらん」
「よく言うぜ、この町にゃお前みたいな髪色した奴は、お前以外だれ一人いやしねぇよ」
「……が、それが、どうしたって?」
「まだ意味が分かんねぇのかよっ」

お返しと言わんばかりに、見知らぬ男は鼻で笑った。何に対して笑われてるのかも、分かりゃしない。
なんて、他人事のように頭の端で考えていると胸倉を捕まれ男は高々しく拳を振り上げようとした。俺はそれを逃れようとも、きゅっと目をつぶる訳でもなく、ただ呆然と相手の拳を見ていた。
その時、

「そこで何しとんねん!」
「?」

男は俺の胸倉を掴んだまま、声のする方を向いた。
もちろん、俺も向いた。

「そいつに手ぇ出すんやったら、俺が相手したるわ」
「ガキが、生意気な事言ってんじゃ…」
「おっさん、忍足っちゅー名家、知っとる?」

そこにいる奴はたぶん俺と同じくらいの年に見える、それでいて何と髪色は金色だった。俺とは違う、けど異質の髪。
金色の髪は、外人だろうが彼の話言葉は関西地方の訛だろうし何より流暢だ。外人という確率は低い、ならば彼も同じ異端児なのか。
男は忍足という名前を聞いてビクリと肩を揺らした。そして俺の胸倉を離し突き放した。それと情けない声を出した。
聞いたことが有るようでない。名家というくらいなら、目の前の金髪頭はお坊ちゃん…だろうか。


「ひいいっ」
「別におっさんのやりおった事を、忍足の権限を使うて…」
「わ、分かった!今日は見逃してくれ!頼む…!」

俺を相手にした時とは打って変わり、逃げ腰の男はそう言った。
それに対し、金髪頭のソイツはこくりと一度頷いた。俺は特に何も思わなかった。

「えぇよ、けど次は無いで」

それだけ言い放ち男は素晴らしい脚力で此処から離れた。
それを細目で見送っていた金髪頭は俺に手を差し延べた。どうやら俺は男に突き放された時に尻餅をついたまま、ぼうっと金髪頭と男の会話を見ていたらしい。

「ほら、捕まりや」
「あ、ああ…」

俺は金髪頭の手を掴んで立ち上がった。
立ち上がると、立ちくらみが少し襲ったが金髪頭に悟られないほど小さな立ちくらみ。

「そのー…さっきは、助かった」
「おん」
「何で、助けた」
「はあ?」

お礼は取り敢えず言わなきゃならないと思ったから言った、けど本題はなぜこの金髪頭が俺を助けたか。
今まで一度もこの状況に遭遇したことの無い俺には理解出来ないことだった。

「人が殴られそうになっとんのを、見捨てるほど酷い奴やないし」
「お前、頭逝かれてるんじゃなか?」
「助けた恩人に失礼やな自分」
「異端児、だから」

ぴたりと金髪頭の動きが止まった。
そう、所詮は金髪頭も同じ。
差別をする彼等と何ら変わらない。いつだって、生きている限り変わることなどない。

「アホか、自分」
「何がじゃ」
「異端児なんて偏見、俺は持ち合わせてへんのや。ましてや自分が異端児やったら、俺も異端児や」
「……」

言葉が出て来なかった、金髪頭の言う言葉に反抗するような言葉の羅列が浮かんで来なかった。
屁理屈すらも。

「俺は薬品かぶったからこうなった、けど自分はちゃうかもしれへん」
「…俺は生れつきじゃき、金髪頭とは違う」
「でも、自分も違うやんけ」
「意味分からんし」
「やって、そうやん。自分がいくら生れつき異質な髪色だろうと、髪の毛以外は普通の人間やん。それを異端児だなんだって言う方がおかしいねん」

金髪頭の言うことに嘘はないと、俺は思えた。
金髪頭みたいなやつは初めてだった。
こんな考え方の奴も、こんな俺以外の異質な髪の毛の奴も。

「忍足謙也って言いますねんな、俺。よろしゅう」
「何が…」
「友達や友達、それと握手やで?名前も教えてくれへんと。自分だけ言わへんの狡いで」
「仁王…雅治じゃき」
「仁王か、よろしゅうよろしゅう!」

こんな乱暴で人の手を握ってぶんぶんと縦に降る握手を初めて見た、初めて握手をした。
この忍足という男に、嫌悪感一つ感じない俺も少し頭が逝かれたのかもしれない。
けれど、こういう頭の逝かれ方ならマシな方かもしれないと頭の隅っこで思った俺は多分、何かが変わり始めているのだと薄々感じとっていた。



呟くように口にすれば溶けてゆく幻







10年03月18日UP



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