悲しき恋を歌うより

※千蔵前提
千歳は出て来ません
気持ち蔵←謙









九州の暑そうな熊本でもしんしんと雪が降っている、らしい。
今、俺が見つめているのは親友で、親友はマフラーに顔を小さく埋めて背中を縮こませコートのポケットに手を突っ込んでいる。
親友の頬は心なしか緩まっていて自然と俺の頬も綻ぶはずなのだが、どうにも俺の口は孤を描こうと思っても上がってはくれない。
それを隠すために冷たく冷えた時折ぐちゃぐちゃになったタバコ等が見える黒ずむアスファルトを見つめながら歩く。

「謙也、謙也」
「なんや」
「今日は買い物に付き合うてくれて、おおきにな」
「おん、別にこんくらいえぇて」
「ははっ、せやな」
「こら、聖書。調子こくんやないで」
「分かっとるて」

親友は知らない。
親友は熊本の実家に帰った千歳千里という大男に恋心を抱き、そしてめでたく恋人同士になった。
残念ながら、その後押しをしたのは紛れも無い俺自身で、俺の気持ちを知っている財前には『アンタ、お人よし過ぎんねん』なんて、言われた。
否定しようとも思わなかった、何度か自分のやっている事に苦しくなって泣きそうになって歯を食いしばる事だってあった。
けれど、毎日のように親友は日々の進展とこれからどうすれば良いかと嬉々とした眩暈がするほどに明るい表情を浮かべる親友を見て、今更ながら後押しを止めることはできない。
それに、明るい表情を見れるのならば、それだけを自分の報酬として続けた結果がコレ。
なんとも馬鹿げた結末で自分にはお似合いだ、いっその事ならと財前に言うと驚いた事に彼は罵るわけでもなく慰めの言葉をかけるわけでもなく、ただただ、幾分と俺の方が高い背丈の俺をギュッと抱きしめ頭を撫でた。
その時ばかりは、溢れ流れんばかりに大粒の涙が流れた。財前は何も動じずただただ頭を優しく撫でてくれた。

「これ、喜んでくれると思うか?」
「千歳やから、白石から貰えたら何でも大事にしてくれると思うで」
「せやと、えぇな」

親友は恋人のために恋人の好きな、たんぽぽ色をしたマフラーを買うた、それもまた親友に付き合うてくれと言われたため仕方なく付き合うた。つくづく、馬鹿だ。
そのマフラーの入っている紙袋を愛おしむように見つめる親友に、さっと視線をそらした。見たくない、ただそれだけ。

「謙也、ほんまに今までおおきに。めっちゃ感謝しとんねん」
「当たり前やん、俺頑張ったし」

色々と、一言では言い表しきれないほどに。
親友は知らない、だからコノ気持ちも隠し通す。

「俺な、…熊本に行こと思ってん」
「!!…えぇん、やない?」
「だから、」
「さっさと行けば、えぇやん」
「謙也?」
「あーあ、清々するわ。俺の肩の荷も降りたっちゅーわけやなっ」

無理に明るい口調にへと上げる。
もちろん、今回は孤を描いてくれるらしい。これで良い、二人が幸せなら。
元から、俺は部外者なのだから。

「謙也、コレな。さっきマフラー買うた時に買ったんや。謙也、使ってな?」
「は?」

マフラーの紙袋と同じ包装紙の紙袋を胸に押し付けられ、半ば理解ができないまま受け取ると白石は「さいなら」とだけ言うて帰ってもうた。



それからぽつりと心に穴が空いたように家に帰り、自室に入ると震える手で紙袋を開け中身を見た。そしたら涙が溢れ出て来た、中身は俺が好きな赤にチェックの柄として白も入っていたマフラーだった。何なんだ、俺は。
偽善者なんかじゃない、ただの最悪な男じゃないか。いっその事、想いを打ち明けた方が良かったのだろうか、親友を自分の方へ向けさせれば良かったのだろうか。

今の俺には答えなんかは見つからなくて、ただただ出て来るのは、目から溢れるしょっぱい液体だけだった。


今は静かに眠りたい





―――――――――――
謙也の片思いが書きたくて、書きたいという衝動に駆られたまま書いたら一時間で完成。
あら、びっくり。千歳が出ないわけは管理人が熊本弁が分からないかr(ry
光くん友情出演、白石をずっと親友と書いてるのはわざとです。
白石が気づいてるかは皆様にお任せします←


10年02月14日UP



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