※タイムスリップ。[戸惑い]の謙也バージョン。
一先ずなんやねん、此処。つか、何処やねん此処。…て、言うても分からへんやんな。
白石の家に勉強に来たんや、過去形になってまうのは仕方ないねん。やって、[未来]に来てもうたんやし。俺、何一つ悪ないもん。
「質問なんやけど、この体制なんやねん」
「普通に押し倒してるんやない?」
「退けや」
「いーややー」
わけ分からないねん、こいつ…やのうて十年後白石サン。此処に最初来た際に、待ってましたとばかりに俺が入れ代わっても平然とした様子で俺に「あ、ちっこい謙也や」なんて言うてた。そのあとに、まあ憎たらしいほどに落ち着いた表情と態度で俺の現状と此処は俺から見れば十年後の世界で十年後の俺と入れ代わったらしい。だから、俺が居た十年前の世界には十年後の俺が居る、らしい。
俺にとって残念な事に、中学生にして美麗な容姿を持った白石は、十年後はそれに妖艶さと大人びた雰囲気を兼ね備えたみたいで、大人の色気という奴か。だとすると、厄介。十年後の俺は大変なはず、色々と防戦体制だろう。それこそ此処に来た時は目も見開いてしまうほどの容姿。
なのに、数分の会話を済ますとベッドに押し倒された。お約束と言ってしまえばお約束で、それを直ちに防がなくては為らなくて。ついでに言うと、この状況は絶対的にヤバすぎる訳で。大人の力に俺みたいな中学生が敵うはずもない。俺の苦手な[駆け引き]をしなくてはならなくて、嫌で嫌で仕方ない。
「なあ、」
「ん?」
「コレをそのまま、続けたら何や…浮気やない?」
「は…?」
素っ頓狂な間の抜けた表情を浮かべる彼に内心、嬉々としながらも表情を変えずに頑張って相手を真っ直ぐ見る。
「せやから、俺とやったら浮気やん」
「あー…せやなぁ…」
「やから!続行はやめへん…?」
俺の上から渋々といった表情で退く白石は溜め息をついた。それは、十年後の俺に何か言われる気がして退いたのか、それともやる気が何処かに行ったのかは解らなくても俺の作戦は成功したっちゅー訳で万々歳や。
「かわえぇ謙也からのお願いやったら、しゃあないか」
「最初からやらなえぇ話やわ」
「我慢出来へんかったんや」
「大人やん」
「無理無理」
これは本当に十年後の奴との会話かと疑ってしまうほどにあっさりしていて、困ってしまう。ただ、否定するときに眉を下げてへらりと笑う辺りは変わっなくて。
何より十年後も白石と一緒に居るっちゅー事実に笑みが零れ落ちてしまう。色々と壁は幾つも有るはずなのに一緒にいる事実は本人には言えないほどに嬉しさを感じる。
「俺、と仲良くやっとる?」
「へ?嗚呼…おん」
「さっすが、俺やな」
「訳分からへんし」
「謙也を悪い虫から守るん、大変やったんやから…ちゃうわ、大変なんや」
「悪い…ムシ?」
「せやでー」
取り敢えず、白石は苦労をしているらしい。ならば、気苦労をしているのは俺じゃないか。
モテる白石だって、俺から見たら大変やし。焦るし不安になるし、でも男同士やからって…他の誰かに取られたない。
「謙也、…?」
「あ、いや…何でもない」
「安心しぃ、謙也以外に俺は好きな奴おらんから」
くしゃくしゃと俺の頭を撫でた。
いつの間にか俺は、不安げな表情を浮かべていたらしく、それを見た白石が俺の瞼に優しくキスを落とした。なんなん、多分、白石に敵う日は来ない。
「せやかて…白石はモテるし」
「それでも、」
今度は瞼でも額でも手の平でも頬っぺでもなく、俺の薄っぺらく冬のせいで乾燥した唇にキスを落とした。予想もしてなかった事と次々と言われる甘い言葉に俺は、
「謙也しかいらん。謙也以外いらへんねん」
恥ずかしくて嬉しくて顔を真っ赤にした。これは不可抗力。白石のせい。
「タイムリミットや、気ぃつけて。俺と仲良くやりや」
「…ん」
最後に、へにゃりと笑いながら頭を撫でる大人の白石に顔は冷めてくれない、暑くなるばかり。さよならが、少し嫌になった。俺は目を閉じて、大人の白石の幾分か低くなった声を聞きながら帰った。
「さいなら」
***
戻ってきたらしい、目を開けたら俺の良く知っている白石の部屋の景色とほんのり頬に赤を乗せた白石がおった。多分、俺の場合は真っ赤。白石を見て大人の白石にやられた事を思い出して真っ赤になっているなんて言えない。ましてや、何をされたかなんて、ありえへん。
「おかえり」
「……ただいま」
「どうやった?十年後の「ダァアアッ…!」…なんやねん」
取り敢えず今は聞かないでくれ、いや本当はずっと聞かないでくれ。
取り敢えず、今の二人の時間をもっと大切に過ごそうかと思った。そんな一日。
ワンチャンス、ワンキス――――――――――――
まともなんです、これでも。
愛サマ、へにょんサマ、リクエスト有難うございました。後の二作は、もう暫くお待ち下さい。
10年01月30日UP