取り敢えず、嫌じゃった。
一言だけ言ってしまえばそれまでで、本当に只それだけ。
ある日、部活の帰り道に柳生さんが女子と歩いとるのを見た。
童顔の可愛らしい女子はきちっとした目鼻立ちの良い…強いて言ってしまえば二人はお似合いだった。
ムカつくほどに、この気持ちをどこに捨ててしまえば良いのかは分からないし、ましてや話し掛けるなんて以っての外。
「…柳生さんのアホ」
一応はお互いに思いあってる筈なのに、付き合っている仲の筈なのに。
女子へと優しく微笑を浮かべて頭を撫でるその一部始終を拳を握りしめながら見ていた。
男の醜い嫉妬。
別に、俺が女子と深い感情も無く付き合っとったって柳生さんは何も言わない。
言うとしたら、
「またですか。貴方も飽きませんね…」
って、呆れた風に肩を竦めて言うとる。
それは、俺には出来んらしい。
端から見たら我が儘な子供ではないか、頭を抱えた。
ついでに溜め息をついた。
***
翌日、朝練をいつも以上に素っ気ない態度で練習をした。
何かを言われる前に、俺は昼休み教室から逃げ出すように、屋上にて相変わらず胡座をかいて青空に向かって気ままに安物のシャボン玉を吹かしていた。
たまに吸い込んでしまったシャボン玉は、とっても苦くて噎せた。
「やっぱり此処にいましたか」
耳に届く心地好い声。
同級生に、こんな堅苦しい言葉を使うのは彼くらいしか知らない。
平然たる態度で、彼の方に振り向いた。
「委員の仕事なんか?ご苦労様…じゃの」
「いいえ、今回は私用で来ました」
「ほう、で用っちゅーんは俺の事?」
「あなた以外に此処にいらっしゃいません」
誰に向かって、いらっしゃいません等と堅苦しい言葉を使うんだ。
古風で律儀で、自分のポリシーが堂々と目に見えるようにある彼。
全てが、愛おしいだなんて俺の柄ではない。
けれど、
「今日の態度が妙に余所余所しいので、何故か聞きに来たんですが」
「別に何でもなか」
お前さんのせいじゃ。
なんて、素直に言えたなら小さな蟠りも、冬に降る雪のように、手の平に乗ってしまえば今まで無かったように消えてしまうのだろうか。
そんな事を考えていたら、自嘲気味の笑みを浮かべていた。
ペテン師という肩書きは何処へやら。
「でも、」
「小さい事じゃき、柳生さんが気にせんでもよか」
「そう、ですか。…横、良いですか?」
「ダメって言うたら?」
「それは困りましたね」
「有り得ないがの」
そう呟くと、柳生さんの耳に届いたのか柳生さんは俺の横に、腰を下ろした。
これだけで幸せだなんて、柳生さんも思っているのだろうか。
というか、聞いても良いのだろうか。
昨日の女子は誰かと。
「のぅ…柳生さん」
「何ですか?」
「昨日…の、女子って…誰じゃ」
「は?」
「真面目に聞いとる、答えんしゃい」
ああ、こんなに低い声で尋問するような形で聞くつもりなんて、なかったのに。
欲深な俺は、嫉妬をしている。彼に。
「…もしかして、それで今日の態度が、余所余所しかったんですか」
「それがなんじゃ」
「貴方も可愛らしい方だな、と」
「…何が言いたいのか、さっぱりじゃが」
妙に口元に笑みを浮かべたままの柳生さんは、口を開いて。
「彼女は、私の妹ですよ」
「はぁ?!」
俺らしくない、素っ頓狂な声を上げてしまった。
そして、立て膝になり柳生さんにずいずいと近寄る。
柳生さんは、近寄る俺に首を傾げる。
「言ってませんでしたか?私に妹がいる…と」
「言っとらん。しかも、あんなに別嬪サンなんて…」
「妹に一目惚れなさいましたか?」
「絶対、無いナリ」
だって、柳生さん以外好きな奴はおらん。
ホモでもゲイでも(同じなんか?)ない俺、なのにこんなにも男の柳生さんに思いを馳せるのは、柳生さんだから。
柳生さんじゃなかったなら、こんな思いを抱かない。
百パーセントの自信が有るくらいに、そう。
「でも、よかったです」
「何がじゃ」
わだかまりが消えたのは喜ばしい事かもしれない、けれど事の発端を見た俺にとっては微妙。
それ故、表情を歪めてしまった。
それも、あからさまに。
「仲直りですよ。このままでしたら、私も嫌ですから」
「柳生さんが兄妹なんに、イチャイチャしとるからじゃ」
「していませんよ!」
こんな馬鹿らしくて、楽しくて、青春を謳歌するような日々が続けば良いのにだなんて、柄にも無く思った。
何より、柳生さんと笑いあえる日々が続くなら、どんな状況だって乗り切れる、そんな気がうっすらとした。
これより立入禁止―――――――――――
めちゃくちゃ放置していた奴
二人とも、何だかんだでお互いを意識してなさそうで、ちゃっかりしていると私の脳内で設定されてます(笑)
10年05月19日UP