陳腐で黒いお遊戯
※黒謙也注意
微狂愛
待って、君に伝えられていないんだ。
お願いだから、俺を一人にしないで。
俺はずっとずっと、君が好きなのに、君は気づくどころか道を逸らすようにどこかに行ってしまうんだ。
待って、待って。
俺の手の平から、こぼれ落ちないで。
そうか、こぼれ落ちる前に綺麗なガラス瓶に入れてしまえば良いんだ。
君が悪いんだ、俺はずっとずっと好きなのに。
振り向いてくれないから、友達以上の想いを君に抱いているのに。
***
目が覚めた。
そりゃあ、これまでにないくらいの最悪な目覚めだった。
頭がずきずきと痛むし、此処がどこだか分からないし尚且つ、上体を起こしただけでフラフラするものだから最悪。
気を失って此処まで連れて来られたのは分かる。気を失った理由はただ一つ、殴られたのだ、後頭部を何かで。
まぁ、どこの昼間にやっているサスペンスだと今なら思える。
「やっと起きたん?」
「…めっちゃ気分悪いんだけど」
「そらそうやろ」
「最低」
唯一の出口のドアから出て来た謙也は、待ちに待ったというより、待たされた、そんな感じな表情を浮かべていた。
犯人は言わずもがなコイツ。
何でこんな事をしたのかは知らない。滅多に怒らない謙也の怒りに、触れた覚えはない。
なのに、どうしてこうなったのか聞きたい。
「何でこんな事したのかって、聞きたそうやな」
「当たり前でしょ」
「自分の胸に手を置いて考えてみぃや」
「私に原因があると?」
「せや」
でっかく頷いた謙也、そして五メートルくれるある距離をじわじわと詰めていく。
心なしか謙也の纏う雰囲気が怖くなってじりじりと後ろに後退する。ずっと後退していくと、とうとう壁と合流してしまい逃げ場がなくなる。
謙也は笑ってる、けど笑っていない気がする。
「ねぇ待って!」
「嫌や、何も分かってへんくせに」
「そうだけど…!」
「此処から出したら、恋人んとこ行くん?」
「え?」
とうとう謙也との距離が一メートル弱になったところで謙也の足は止まった。
身長の高い謙也を見て話しているため自然と上目遣いになる。
理解できなかった。
私を此処に閉じ込める謙也も、唐突にそんな事を聞く謙也も。
今の私には理解できなかった。
「ずっと小さい頃から自分とは一緒におった。せやのに、自分がどんどん離れてった」
「…うん」
否定なんかできなかった。
謙也の言ってる事に間違えなんてない、全部事実で親友であり悪友であり幼なじみの謙也から離れていった。
でも謙也は見守ってくれた、好きな人ができた時、好きな人と喋って嬉しさのあまり報告したり、好きな人に告白する時、好きな人と付き合えるという事になった時、それとそれとと、思い返せば言いきれないほどに謙也が関わってきた。
なのに、
「挙げ句の果てには、恋人も作りおった」
「…そんな言い方ないでしょ?謙也だって応援してくれたのに…!」
「そんなん、」
謙也は悲しそうに笑って言った。
「…ずっとずっと自分が好きだったからに、決まっとるやん」
「う、そ…でしょ」
「これが嘘だったら、今、自分は此処におらへんて」
「だって、そんなそぶり一回も見た事ない」
「ちゃうわ、見せないようにしてたんや」
謙也はまだ悲しそうな笑みを浮かべたまま、私の首に両手を宛がった。
そして本当に弱い力で私の首を絞めた。
苦しくも何ともない、ただ分かるのは謙也の手が震えている。
「なぁ、好きやってん。ずっと自分が」
「ありがとう、でも」
「分かっとる、せやから」
たっぷり五秒ほど間を空けて謙也は言った。
「ずっと此処におって?」
謙也の言葉ははっきりと残酷に私の耳に、行き届いた。
目の端からは、しょっぱい液体が流れた。
その液体を手で拭うことも忘れ、否定や肯定するわけでもなく、ただただそこに居た。私には、謙也を突き飛ばして出ていく事も、泣き縋る事も、首にある両手を払う事も、できなかった。
陳腐で黒いお遊戯
謙也黒計画様に提出
10/04/05