兎と狐

たまには、と思ってサボってみた。実際、外で体育をしていた時に時折ふわふわと受かんでいたシャボン玉が目に映りこんで、それで興味が随分と惹かれた。
体育で疲れたり教室に向かう女子達には、空は見上げなかったらしい。が、今日は雲がちらほらとある綺麗な青空。少しくらい、ぼうっと見ていても飽きはしないはず。

なので、多分サボった人がシャボン玉を吹いたのだろうと予測はついた。誰だかご存知あげないけど、まさか人気で近づいただけで女子にぎゃーぎゃー言われなきゃいけない、大人気のテニス部の誰かさんだとは、この時思ってませんでしたよ、ええ全く。

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「着いたー!寒い…!」

いくらブレザーを着ていても、いきなり冬の寒さが出て来た今日はマフラーとか持ってないワケで、正直この寒さは辛かったりしたりする。こんな寒い時期にシャボン玉を吹いてる奴なんて、多分寒がりじゃないんだろうって思った。
けど、案外そうじゃなかった。だって、目の前に銀色の尻尾…じゃなくて、長い髪。蛇みたいに切れ長な目と綺麗な容姿。んで、マフラーぐるっぐる巻きにしてカイロ持ってる。
そんなに寒いなら中に居た方が良いと思うけれど。さ、人が分かったところで女子に恨まれ妬まれる前に帰ろ…かな?

「あの、テニ部のレギュラーの男子。手離して」
「酷いのう」
「いやいや、冷たいんだけどアンタの手。離せ」
「なんで?」
「こっちがなんで」

何この人、詐欺師とか聞いてたからもっと性格悪いと思ってたのに。テニス部だからイケメンだね、うん。
この平凡な私を離せ。

「何か用でも詐欺師さん?」
「人聞きの悪いこと言うのう…お前さん」
「質問に答えて、銀色の尻尾」
「ソレ、酷くなか?…んー、何でじゃろ」
「それを聞いてるんだけどね」

思いきって手を上から下に振った。でも、いくら私がちょいと力強くても女子VS男子でやったら、敗者は女子。
ということで、手は解けなかった。こんちくしょ。寒空の下、私達はなにをやってんだか。馬鹿らしいとも、いや、そうとしか思えない。夏なら蒸し暑い炎天下の蝉がみんみん鳴いてる中、部活をやっててテニス部へと歓声という名の端から見たら煩い女子軍団がテニスコートにたかっているのに。

「もういいや。部活、引退だっけ、テニス部も」
「おん、そうぜよ」
「お疲れ様」
「は?」

にっこりと笑ってやった。意味、分からないでしょうね、多分。それが仁王には一番良いよ。人を手の平でふらふらと踊らせて最終的には、自分は観客なんだ。そんなの狡いと思ったりするから、舞台に引きずり出すか、舞台からアンタにいきなりスポットライトを当ててみる。ちょっとした好奇心。

「だって、テニス部の練習だったり女子に騒がれるのも、少しは減るだろうし。それにさ、レギュラーって言う重荷も無くなって軽くなるでしょ。
だから、お疲れ様」

よし、私よく噛まないで笑顔を浮かべながら言えた。あれ、演劇部に入れば良かった?間違えた?わたし。

「ほぉ…」

じろじろと物珍しそうに私を見る仁王に私は目を細めた。多分、ここで目をそらしたらバレちゃうからね、マジックなら種明かしする前にバレちゃ下手くそっていう事。

「…お前さん、下手くそな嘘は止めた方が良いぜよ」
「は?」

まさかまさかまさか、バレちゃた、と?
別にこんな寒い中で噛まずに嘘ぺらぺらと言えた自分を褒め讃えるけど、けど。

「嘘なんか言ってないよ、仁王くん」
「嘘じゃ、ほんにお前さんお疲れ様なんて気持ち真っ平無いくせして、よう言うぜよ。それに、お前さん俺ん事、仁王くんなんて呼ばん」
「…なんかつまんないの、」
「詐欺師はそう簡単には引っ掛かりゃせんよ」
「仁王くんつまらない」
「光栄じゃき。のう、お前さん、名前は?」
「…教えない」











兎は狐の手の平踊る



09年12月05日UP







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