家の中にはいーくんと私。外には赤色。
「あの、哀川さん」
「名字で呼ぶなっつってんだろーがよ、あ゛?つかいーたんは黙ってろよ。」
沈黙に耐えかねたいーくんは話し始める前にバッサリ。
どんまい。仕方ないね。
「はじめまして、零崎琴織と言います。」
「おーおー、礼儀のなったお嬢ちゃんだな。…だけど。」
哀川潤は顔を近づける。美人に至近距離で睨まれるとかホント怖い。
「あたしに向かって零崎姓を名乗るとか…喧嘩売ってんの?」
怯んでばかりはいられない。私の構成要素には最強の赤だって入っているのだから。
「いいえ。貴女は身内を大切になさる方だと伺いました。そんな人に、大切な家族からもらったこの名前を隠すようなことはしたくありません。」
見つめ合い、いや迫力的には睨み合いが続き、人類最弱は黙って見ていることしかできない。
「ふぅん?度胸は大したもんだな。アタシと零崎の混血なんて気分わりーから、どうやって葬ろうかと思ってたけど…気に入った。お前アタシの妹にならねー?」
「…貴女が零崎と家族になると承知なら喜んで。」
「それは嫌だ。」
どこまでも自分基準で話を進めたいらしい。
「…ならば、仕方ありませんね。」
「そこは譲らねーってか。でもさー、血はつながってるみたいなもんなんだからよぉ、赤の他人はつまんなくねー?いや赤は好きなんだけどよ…こんな面白そうなもんほっとけねぇっつーか…あ。」
「なんか今本音だしたよね。いーくん、この人のマイペースさ加減どうにかならないかな。」
彼に助けを求めるのは酷である。
「おい無視すんな。お前月影の名字に愛着はあんの?」
「や、特には。」
「なら決定。朔羅はアタシの妹な。」
「…は?」
彼女の中では何かが決定したらしいが、周りには全く何も伝わらない。
「だーかーら。今日からお前は"哀川朔羅"な。零崎の方とは分けて考えろ。
ホントは零崎姓なんか気に入らねーけど、アタシとしたことが零崎の連中に遅れをとったのは事実だからしゃーないってことにしてやる。
でもアタシの前では哀川朔羅な。
で、アタシのこと名字で呼んだら零崎として対処すっから。お姉様でもお姉様でもお姉様でも何でも好きに呼べ。」
敬語もいらないからなーと笑う。…選択肢の幅が異様に狭いのは最強クオリティか。
しかしまぁこれは…拒否する理由もないし、拒否したらなんか怖いし。承諾するべきでしょうか。
「…分かりました、潤姉、で良い?」
上出来だ!と笑う潤姉はとても嬉しそうで、その笑顔がちょっとレン兄に似ているとか、口に出したら私の命が危ないんだろうか。
潤姉が帰っていった後、いーくんはなんだかびっくりしていた。
でもしばらくして、
「色々なんとも言えないけど、とりあえず家族が増えて良かったね。」
そう言って頭を撫でてくれた。なんて素敵な人。
そんなこんなで本日、人類最強な姉ができました。