――ピアノバー『クラッシュクラシック』


その場所への地図が琴織の手にある発端は数時間前のこと。





軋識・人識への自己紹介を終えた後、双識が思い出したように話しはじめた。

「そうそう琴織ちゃん…さっき見たときは素手だったようだけど君、武器ってあるのかい?」



琴織は比較的軽装で、武器となりそうなものは見当たらなかった。

零崎一賊は武器にちなんで二つ名を決める。

早く琴織を自分達に馴染ませたい双識にとっては早急に用意するべきもの。



「あぁ…持ってないね」


「持ってない…?じゃあ琴織、今まで素手で戦ってきたんっちゃか?」


「あ、いや、実は二週間前に放り出されたばっかりで。それまではえっと…保護者?みたいな人達に一通りの武器を必要に応じて持たされてたから。何でも使えるけど今は自分のものはないんだよね。」



「珍しい女の零崎じゃ狙われやすいかもな?お前強そうだけど刃物に素手はきついだろ。俺のナイフ貸してやろーか?」



「いやいや、二つ名を考えるためにも新調した方が良いだろうね。



あぁそうだ。トキの友人に罪口商会の人間がいたね。彼に頼んでみたらどうだろう。」



「対価に何要求されるか分かんないっちゃよ?」


「しかし身を守る武器に妥協はできないしね…まぁ何にしてもトキにも挨拶に行きたいだろう?話してみてからでも良いんじゃないかい?」



「トキ…少女趣味さんかな?」



「おい、琴織は曲識の兄ちゃんのターゲット範囲内じゃねぇのかよ?」


「うふふ、トキが家賊を殺す訳ないだろう?


という訳で琴織ちゃん、どうかな?」



「そうだね、私も家賊には会いたいし…今から?」



「うん、早い方が良いだろう。私達はこれから用事があってこの家には誰もいなくなってしまうし…トキの所に泊まらせてもらうと良い。」










そう言って地図を渡されたのだ。
そして今琴織は『クラッシュクラシック』の前に立っていた。



「失礼、します…」








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