「人兄の言ってた通りならこの辺なんだけど…」
骨董アパート。下手なセキュリティーのマンションなんかより自分の身を守りやすい。言われれば納得できなくはないけどまず一般人の思いつく自衛手段じゃない。まして実行に移すなんてやっぱりいーくんは変わり者だ。
ていうか実は自分がトラブル巻き込まれ体質だって認めてたんだね。
懐かしいなぁ、いーくん。
頭だけは良い変人ばかりのあの研究所で飛びぬけて変人だったいーくん。
真心が連れて行かれて中退しちゃったいーくん。
私が会えるのはたまにだったけど不思議な雰囲気を持ついーくん。
無為式、だったっけ?存在が罪みたいな。欠けている所が多すぎるが故に他人に不安感を与えてしまうのだそうだ。
私はむしろ安心感を感じたけれど。
さて。裏世界の匂い。
この気配は懐かしい、と言っても私に組み込まれた遺伝子は多様過ぎて。
心当たりが多すぎて見当がつかないよ。
あぁ、あの少年だ。
水玉模様の鎌。鎌=死神で良いのだろうか。
「こんにちは。」
とりあえず声をかけてみる。
「こん、にちは。」
おい少年、微妙な顔をするなよ。
「石凪の方かな?私琴織と言います。」
「萌太と言います。貴女は…何者ですか?」
何者…ね。
私は何もしていない。それなのにこの警戒。あ、
「そういえば石凪には家出した子がいるのだっけ?萌太くんがそう?」
「…それを聞くということは、僕達を追ってきたのではないのですね?」
「石凪の人にちゃんと会ったのはこれが初めてだから、特に君を追いかける理由はないよ。」
目に見えて警戒を緩める萌太くん。
「そんな簡単に信じて良いの?」
「ただの確認みたいなものですから。なんとなく石凪の気配がしたので警戒してしまいましたが、貴女、その名前は零崎でしょう?特に殺気は感じませんし。」
「あ、そうか。石凪と…闇口も当然のように入ってるんだった、後ろの可愛い子は妹さん?」
あれ、また警戒が強くなった。
「なぜ崩子が闇口だと?」
「そうは言ってないけどね。…私の成分に闇口も少し入っているから。」
「!…"継ぎ接ぎ"ですか。零崎だったとは。」
「最近家族にしてもらったばかりだから。で、琴織って名前をもらったからそっちでお願い。」
"継ぎ接ぎ"がどこかの肩をもったことはない。
研究者たちの気まぐれで実戦投入することはあったが大方海外の話だし。
あまり敵視されてはいないようだ。萌太くんの警戒が完全に消えたのが良い証拠だ。私に感じた違和感の正体が分かってむしろすっきりした顔。
ちょっと安心。私だって嫌われるよりは好かれる方が嬉しい。
はい、と呼び名に関して了承を得ると現在の優先事項を思い出す。
「あの、貴方達兄妹には興味があるのだけどさ、私骨董アパートってのを探しているのだよね。知らない?」
彼は少し目を見開いて怪訝そうな顔をした。
「すぐ近くですが…何か?」
「うん?友達、いや、知り合い、かな?に会いにいくの。」
「知り合いですか。」
萌太はちらりと妹の方を伺い、その眼に警戒がないことを見てとった。
「僕達もそこに住んでいますから、ご案内しましょうか?」
「ら、そうなの?じゃ、お願いします。」
「ちなみにそのお相手の名前をお聞きしても?」
なんとなく、"継ぎ接ぎ"なんて奇抜な知り合いがいるアパートの住人なんて予想がつくけれど。
確認のためのその問いには予想通りの回答が返ってきた。
「あ、いーくん、だよ。本名というかフルネームは知らないけど。」