琴織と積雪さんが武器について話し合っている。
打ち解けるのが早いな。悪くない。
「じゃあ、そういうことで。」
「本当にこれだけで良いのですか?」
「うん。それだけあれば刃物でも銃器でも防げると思うから。」
「それでは明後日にでも持ってきますね。」
「さすがに仕事が早いんだね。よろしくお願いします。」
「それでは琴織さん、曲識君、失礼します。」
「あぁ。」
「気をつけて帰って下さいねー。」
ぱたん。
くるり、と曲識の方に向き直って言う。
「トキ兄。何か聞きたそう、かな?」
「僕が聞いて良いようなことなのか判断ができない。よって特に何もない。」
「むー、興味がないって言われるのもさみしいな!聞かれて困ることなんてない。ついでに私はトキ兄にお願いがある。」
「お願い?レンに言われている、そんなことをせずともある程度なら、」
「ある程度、ってモノじゃないの。トキ兄が簡単に頷いてくれるようなお願いじゃないことも分かってる。だから、トキ兄が私に興味を持ってくれて…レン兄に言われたからとかじゃなくて…、私のお願いを聞いてくれると良い。」
私のわがままだから強制はしないけど、と小さく付け足す彼女。
不用意に遠慮なしに人の領域に踏み込むことをしないその姿勢は好ましい。
「ふむ、本人の許可があるなら気になったことは解決しておくのも、悪くない。
積雪さんが、いや、むしろ罪口商会が"血液"位の代償で満足するとは思えなくてな。そんなに琴織の血は特別なのか?」
「血液というか、遺伝子だね。私は"実験体"なの。
暇な科学者さん達がいてね。
あんまり暇だったから理論的には何の意味もないことをしたんだ。
―――世界中で賢人とか化け物とか最強とか言われている人間の遺伝子を思いつく限り大量に、組み合わせたんだよ。
結果として、そんな大したものは―人類最強を超えるようなものは―できなかった。
で、飽きちゃったのかな?ちょっと前に捨てられちゃった。」
だから世にも珍しい血液ではあるんだな。
そう言う彼女には悲しみや憤りやその他一切が感じられない。
例えば年齢や出身地を教えただけだとも言えそうな表情。
その存在の底知れなさに、確かに曲識は彼が憧れてやまない赤の気配を感じた。
いつ会えるかも分からない哀川潤の遺伝子を持った少女が"妹"。
…悪く、ない
とりあえず彼女のために一曲作ろうか。