静かで美しいピアノが流れる店内。都合の良いことに客もいないようだ。
ふと、ピアノが止む。
「よくきたな、琴織。レンから連絡はもらっている。」
そう言ってこちらへ歩いてくる曲識。
信頼はしていても万が一を考えたのだろう、曲識に連絡をしてくれた双識の心遣いが嬉しい。…ただ妹自慢をしたかっただけかもしれないが。
「はじめまして、琴織といいます。」
「"少女趣味"の曲識だ、そうかしこまる必要はない。」
「わかった。えっと…トキ兄って呼んでも良い?」
「兄か。悪くない。…あぁ、来たようだ。」
ガチャリ。
「こんばんは、曲識君。それと琴織さん、ですかね?」
「はじめまして、積雪、さん。」
挨拶を交わした後2人は共通の知り合いである曲識に視線を向ける。
「ふむ。レンから琴織に武器を作ってやって欲しいと聞いたからな、一応呼んでおいた。呼び出してすまないな、積雪さん。」
「いえ、私個人として琴織さんに興味があったから応じたまでですよ。」
罪口積雪。武器職人である彼は武器にしか興味を示さない。
「それは琴織を実験に使いたいと言うことか?僕が口を出すことではないだろうがレンが"妹を傷つけつける位なら他を当たる"と…」
「あ、いえいえ。琴織さんの場合は違いますよ。彼女はオールラウンダーのプレイヤーと聞いたので試作品を使っていただこうと思いまして。情報違いではありませんよね?」
「え、あ、うん。一通りの武器は使えるけど。」
「君は自分で実験してみないと納得できない人だと思っていたが。」
「できることなら、そうですね。しかし拷問用のものはともかく実践に使うものは私には試せませんから。
使用者のスピードについていけるか、衝撃には耐えられるか…そういう実験です。
自爆してしまう武器など商品にはできませんからね。」
「そうか。それ位なら悪くない、だろう。」
自爆するかもしれない武器の実験台となれば危険でなくはないだろうが…それ位のリスクをおかしても釣りがくるだろう。
それ程彼が作る武器は一級品だ。
「…それだけではないでしょう、積雪さん。」
積雪は琴織の名に反応して興味を持った。
零崎として名が売れているわけがない。今日朔羅は"琴織"として誕生したのだから。
ならば。
「貴方は月影朔羅を知っている。月影朔羅の体は利用価値がある。」
「ええ、でも今言ったことは事実です。私個人としての要望ですよ。ただ琴織さんの体は素材として興味深い、というのが罪口商会としての見解でして。なので今回の武器の対価は血液、ということでいかがですか?」
「それ位なら問題ないですよ。」