学、校?
突如として表れた風景。それは明らかに学校の屋上だった。ドラマの撮影なんかにうってつけだろう典型的な。
涙が零れた。これが夢なのか、この身に不思議が降った結果なのか、そんなことはどうでも良くて。
目の前の光景が見慣れたものでないことが悲しかった。
特別ドラマティックな人生ではなかったにしても私は自分の学校生活を愛していた。
そこで出会った皆を、愛していたから。
日課である校内見回りの最中、屋上に不審者を発見した。見上げるこちらには気付いていないらしく、呆然と佇むソレは長い髪を緩やかに靡かせていて。何故か愛する校内に異物を確認した苛立ちは感じなかった。それでもこの並盛中をこよなく愛する雲雀恭弥にとって看過できることではなかったから、好奇心と使命感を携えやってきたわけだが。
扉を開ける。見慣れた景色は至って通常のもの。本能が知らせるままに足下を見やれば、居た。
「ねぇ。…ちょっと、聞こえてる?」
二度の呼び掛けでようやく顔をあげた。それを見て雲雀は目を眇る。
「勝手に僕の学校に侵入して、何泣いてるわけ?」
「ここじゃない、」
辛うじて聞き取れたのはそれだけ。
苛つきながらも聞き直せば、少しだけ具体的な文が返ってくる。
「こ、こは、私の、学校じゃない。」
「なに、迷子?」
それだけで泣くほど幼くないだろうに。自分とほぼ同じ年頃だろう少女を見つめる。
話している間に落ち着いてきたらしい彼女はひどく寂しそうで。何の気なしに質問を続ける。ちょっとでも気に障ったら即咬み殺してやろう、とトンファーに手をかけながら。
「へぇ…。ねぇ、君、自分の学校が好きなの?」
怪訝そうに自分を見上げた彼女は間をおいて微笑み、はい、と答えた。
「大好き。」
心の底から嬉しそうに続ける彼女に毒気を抜かれ、雲雀はトンファーから手をはずし、そのまま少女に差し伸べた。
咬み殺すのはいつでもできる。今はこの変な少女が気に入った。気まぐれに付き合ってやっても良いだろう、と。
「何してんの、さっさと立ちなよ。僕の手がとれないわけ?」
きょとんとしながらも気圧されるがままに自分の手をとって立ち上がる彼女を見て、口の端をほんの少し緩めた。
「君の学校がどんなものか知らないけど、」
雲雀恭弥直々に学校案内をしてやるのだ。きっと気に入る。いや。
「気に入らせてみせるよ。僕の学校なんだから、ね。」