缶コーヒーの威力を知っている。
冬の夜、握りしめた缶のぬくもり、と、それを与えながら失っていく、その小さな缶の威力を。

「ほら」

手渡されたそれは、誂えたように収まった。

「、ありがと。」

少し熱すぎるくらいの温度はすぐさま馴染んでいく。じんわりと、染み込んでいく。
プルタブを開け口に含めばやんわりとした甘味が癒すように、刺さるように。
喉を通って胃に落ち、体の底から何かが満ちていく。ほぅ、と息を吐いた。

「お前さぁ、すげぇ不器用だよな。なんつーか、生き方みたいなのがさ。」

くすりと笑いながら、君島は葵の頭に手を載せた。

「ま、俺は嫌いじゃないけどな。っつか、かなり好きだけど。」

ぽふり ぽふりとあやすように撫でながら、彼は言う。

「他人事だと思って。」

涙の変わりに憎まれ口を叩いてこらえた。
いま、泣くのは筋じゃない。

「んなことねぇよ。お前のものは俺のもの、お前の涙も俺のモンです。」

「なに、それ。」

手の中の熱はもう冷めてしまいそうだけれど、心と体は芯から暖かい。

「どうも、ありがとう。」

「どういたしまして。」

へらりと笑った顔。あぁ好きだなぁなんて思う。のんきなこと。

「さ、帰るぞ。」

差しのべられた手をつかむ勇気も、今はある。
 

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