ある一定のリズムが、体の底を流れていた。
「食わんのか」
ゆるい粥を手にこちらを伺う雰囲気があった。
「食いたくないのか。…あぁ、米は食べられないのか?」
問うているのはこちらか己か。
飄々とした碧の目の男に、私は仕方なく言葉を返す。
「米は食う、が、食わねば死ぬということもない。蟲師のお前がよくもまぁ。」
消されると思った。
今まで出会ったやつらは皆そうしていた。
ヒトに擬態する私に、勘の鈍いものであれば気付かず、気づいたものは一様に厳しい目を向けてきた。独り言を拾いていはく、
「ヒトになり済ます蟲は人を騙し、誑かす。早々に始末して然るべき、」と。
面妖な、と呟けば、お前が要らんのなら俺が食うかと言って食べ始めた。布団に寝かせた私の枕元に胡座をかいて、美味そうに。
意味が分からぬ、微かな溜め息と共に吐き出して、目を閉じる。付き合っていられない。
「お前、何のために生きてんだ?」
思惑が分からず、真意を問うため目を合わせる。位置関係のおかげでどうしても碧の眼を覗き込む形になるのがくやしかったが、かといって起き上がる力も矜持も残っていなかった。
「蟲に存在意義があるとは思わんさ。しかしいきものは生きるために他を喰うなりして力を得る。蟲は多少なり周囲に影響して存在する。」
それに比べてお前は、と区切り椀の残りを音をたてて啜り込む。
「傷つきながら人と関わり目的を探して生きるお前は、どちらかといえばヒトに近い。」
知らず、熱い何かが溢れる。
眦を伝うその熱いものが、己の命に思えて仕方なかった。溢れ出て尚、身の内に満ちて行く不思議な何か。
煙を吐き出し男は心の内で呟いた。
この煙をものともしない蟲など、もはや。