「悪い話ではないでしょう、何を左様に不快と思われる。」


派手に桜の散った着物を少しだけ着崩した女が笑う。ともすれば下品になろうそれを従属させるがごとくの気迫。本人がそれに能う造作をしていることもまた一因か。


「フン。思い上がりも甚だしいわ。失せよ。」

「そう急きまするな。」


笑みを崩すことなく鉄扇をぬいた。しゃらん、という音がいやに耳につく。


「我が部下をどう扱っているか知らぬわけではあるまい。女なぞに耐えられるものか。」

「だから、貴方様の駒になりましょう、と申しているではありませんか。」


笑みは、崩れない。ただほんのりと、目付きは険を帯びて。


「我が、…果てよと命ずれば、何とする。」


他人に射抜かれる感覚は元就の神経を逆撫でるばかりで、葵と名乗る女の肩口へと視線はずれる。


「何を仰るかと思えば。」


細やかな細工の施された自身の獲物で口元を覆い、忍び笑いをもらす。華奢なつくりのそれでしかし、先程充分な重量と破壊力をもつ元就の攻撃を流しきってみせたのだ。
侮れぬ、ということは同時に有用な駒と等号で結ばれる。しかし。それはまた同時に、脅威でもあるからして。


「何がおかしい?」

「ふふ…いえいえ。そうでございますね、…"否"と、申し上げましょう。」

「ほぅ。駒と使えと申したはそなたの方ぞ。」

「ですから。」


一瞬にして葵は元就へと顔を寄せる。輪刀の攻撃が無効化されるほど、もしくは…口づけの射程。


「わたくしが、死ぬ方が有用であるなどと…そのような判断を与えはしませぬ。また貴方様は、そのような愚劣な判断をなさいませぬ。」


香が薫る。
くらり、とした感覚が駆け抜けて、視界が歪んだ。
はっきりと伝わってくるのは首筋に宛がわれた冷たい鉄扇、それに涼やかな誘いの言葉。


「わたくしを、お使いなさいませ。」
 

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