「誕生日おめでとう!」


言葉と共に差し出される贈り物。幸せで嬉しくて、もちろん笑顔でお礼を言った。

ひとり帰宅しずるずるとへたりこんだ今、それとは裏腹な感情が渦巻いてゆく。


「贅沢、だよね。みんな、ボクの為にって…さ。」


昨年までは"二人の"誕生日だったこの日。
ひとり残された士郎を元気づけようと用意された品々は量こそ例年と比べて遜色ないけれど。

「アツヤは、今だって一緒にいる、のに。」

仕方ないだろ、他人からみたら俺は兄貴の記憶みてぇなもんなんだし。

傍から見たひとり言へのその返答を自分以外に聞くものはなく。

ここが雑踏の中だったとしてもだ。


もやもやとした気分のままふと窓に目をやった。はらりはらりと降り積もるそれがまたひどく、物悲し…い?


ガラリ、とその透明な仕切りが開かれた。


「ぃ、しょっ、と。」


突然ぬ、と生えた腕は掛け声とともに1人の少年を持ち上げた。


「ちょ、葵何やってんの!?」

「おー、士郎。誕生日おめでと。」


にぃ、と笑う彼はまさしく幼なじみの矢崎葵だ。
驚く士郎の前に白い箱を置く。


「あ、…ありがとう。」

「開けてみ。」

「うん…。」


封をしていたシールが丁寧な動作で剥がされた。

少年が買い求めるにしては幾分洒落た、それ。白と黒と紅色の色合いが美しい。


「3つ…?」

「ん?何だよ買ってきた俺に喰うなっての?苺タルトは俺の、って世界の常識だぜ?」


そういうわけではないけれど。黙ってしまう吹雪を見て葵は笑う。なんてな、と言葉を紡ぎながら。


「士郎と、アツヤと、俺の分。アツヤは士郎の中でも俺の中でも生きてるもんな、あいつケーキ好きだろ?ないとふてくされるじゃんか。」


からからと笑う。
どきりとした。葵が言っているのは思い出としての、それだけれど。

実際に自分の中にはアツヤが今も現在進行形で生きているのだと、そう知ったら。

気味悪がるだろうか。最低限この笑顔は凍りつくだろうか。

せっかく祝いにきてくれた相手にこんな気持ちをもつのは頂けないかもしれないけれど。葵なら受け止めてくれないだろうかと祈りにも似た期待で士郎は。


「ふぅん?」


決死の覚悟で打ち明けたというのにその反応は何なのだ。


「じゃあやっぱり3つで合ってたな。アツヤの分忘れてたら蹴られるとこだった。」

「そういうことじゃないだろ!」

「そういうことだよ。」


思わず激昂すれば至極冷静な声で返される。訴えるように、葵の目は士郎を見据えていた。


「笑え。」

「え…?」

「アツヤがおまえの中で生きてんだったら、アツヤの分、きっちり笑えよ。泣くときは俺も一緒に泣いてやんよ。ただな、アツヤの分、幸せになんのは、おまえの仕事だ。」

「うん…?」


だーっ!もう、物わかりの遅ぇ。こんなに恥ずいこと言ってやってんのに、と葵は自分の髪をかきまぜた。

それからふぅ、と諦めたようにため息をついてから笑う。


「難しいこと考えんな。士郎がいて、アツヤがいて、俺がいる。そんだけのことだ。楽しくやりゃ良いんだ、違うか?」


士郎も苦笑してそうだね、と受け入れる。それから浮かべた笑顔は控えめでさえあったものの、久しぶりの心からの笑みだった。


「よし、じゃあケーキだ。あ、士郎。」


例えアツヤがいても体はひとつだかんな、ケーキは半分こだ。

真面目な顔でいう葵に、士郎は今度こそ腹の底から笑ったのだった。



Thanks壱萬打 from25コ目の染色体

 

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