次のネタを夢想する私の前に今矢崎葵がいる。ソファに丸くなって携帯をいじっている。

あれから彼女は頻繁に入り浸るようになった。
火村の話だと彼の所には以前からよく訪れていたらしい。身寄りがないという彼女はアルバイトでもしているのか、お金だけは十分に持っているようだから人恋しいからだろうか。


「有栖川先生。」

「何や?」

「…別に。ただ、」


携帯をパタンと閉じて控えめにこちらを見る。


「有栖川先生も、先生も、私を追い出さないから。」

「から?」


その後を続けようとしない。

確かに普通なら追い出すのだろう。彼女の容姿ならばすぐ立派なお相手だって捕まえられるだろうし、一人で生きていけそうな強さもある。


続けるつもりもなかったのかそのまま眠りに入ってしまった彼女を見て、何とも言えない気持ちになった。


火村があんなことを言わなければ私も彼女を気にかけることはなかっただろうに。



しばしば周りに出没するらしい葵をなぜ人間好きとは程遠い彼が邪険にしないのかと私が聞いたときのことだ。


"あいつが、同じ穴の狢と言ったろ。あれ的を射てるかもしれんな。俺が犯罪捜査する理由は知ってるだろう?"

"人を殺したいと思ったことがあるから、か。俺には分からんが。"

"まあそれだ。で、俺があいつに何で犯罪に興味があるのかと聞いたことがあるんだが。"

"へえ?で、彼女は何て言うたん?まさか人を殺したことがあるから、とか言わないだろうな。"

"冗談にしてはダークすぎるぜ?まあ、な。"



「人間というものを消し去らなければならないと思ったことがあるから、か。」


そう言ったときの火村の笑みが葵の笑い方と酷似しており、ひどく危ういものに見えたことをここに告白しよう。
*前  

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