勢い良くカーテンを閉めれば小気味の良い音がした。

少しばかり寝苦しいくらいの空間をひやりとした夜風が通り抜ける、夏の夜。

見とれんばかりの月光をあえて遮ったのは。


「全く物好きな方だ、貴女は。」

「あら、何故?」


背後で闇が形を持ち、言葉を発した。

窓へと向かっていた体を反転させ、笑う。自分が物好きだなんて言われなくても知っているもの。


「さて…まぁ良い。貴女の望みは、」

「何だと思う?心の奥底、当人さえ気づかない本当の望みを見抜く夜闇の魔王さん?」


悪戯っぽく言えば、彼は悔しがることもなく淡々と降参の意を述べる。


「残念ながら、貴女の望みだけはわからない。魔女が貴女の魂の形だけはわからないのと同じように。」

「あら、そう。」


暗闇の中、色の白い彼の顔がぼんやりと浮かび上がる。あまりに綺麗で、まさしく人間とは言えない彼にふさわしい造作。


「実のところ貴女に望みがあるかすら定かでないのだ。貴女は全てを支配している。」

「不思議ね、じゃあ貴方は何故私の前に現れたのかしら。」

「それは…」


あぁ、影の番人が言葉に窮するなんて!


「貴方の言う通り、私に不可能なんてないわ。だけどね、だからこそ飽きてしまったのよ。【物語】が終わってしまった今、ここに私の退屈を紛らわせてくれるものはないの。」

「では、新たに【物語】を?」


それも良いかもしれないわね、神野陰之。貴方が私のためにしてくれるなら、本当は何だって良いのよ。でも。


「いいえ、物語はもうどうでもいいの。"影"は"神隠し"に魅入られて退場した。私は"追憶者"も"鏡"もあんまり好きじゃないのよ。それにね、私はもう、待てないわ。わかっているんでしょう?」

「叶えられない願いも、ある。」

「そうね。貴方が来てくれたことではっきりしたわ。これは貴方の願いでもある。」


ねぇ、今さら躊躇ったって遅いのよ。私の前に現れたということは、覚悟ができているんでしょう?


「だから、」

「貴方には私の願いを叶える義務があるわ。だってそれが貴方の仕事でもあるんだもの。」


さぁ、早く。


私は両腕を伸ばし、彼の首へと回す。

彼の片腕が私の腰を支えるのを感じて、言葉を紡ぐ。

この世界で最後となるであろう言葉を。

私の最初で最後の、願いを。


「私を連れていって頂戴、神野陰之。貴方の世界に。」
 

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