かつり、と窓が叩かれてクォルファは意識を浮上させた。
鍵のかかっていなかった窓を静かに開け侵入してくる少女の名を呼ぶ。
「ライア。」
「や、リーヴ。シルフに見守られてうたた寝かな?」
「そんなところだ。」
実にさりげなく、ライアの視線が灰皿に向けられたのをクォルファは見逃さない。しかしこちらとしてもあまり言及されたくはないので流すことにした。
「用がないなら帰れ、あるなら扉から入ってこい。」
「ぅ、手厳しいなぁ。用ならあるよ、お茶会をしよう!」
「は?」
可愛らしい包みを掲げ、彼女はにっこりと笑う。この娘と赤銅の髪を持つ問題児の無邪気な笑顔がクォルファには少し眩しくて、目を細める。
「ポット借りるね、やー、良いお茶が手に入ってさぁ。リトルディアの月光花、知ってるでしょ?あの花びらを特別な製法でね…」
良く喋る、と思う。今日は特に。
静かに素早く、茶の支度をする彼女の背後に回りこむ。振り向こうとする動きを制して腕に収めた。
「リーヴ…?」
「アーシェスの入れ知恵か?」
「あー…、や、別に何も頼まれたとかじゃなくてね、」
「何かは言われたのだろう?」
腕の中の温もりが心地良い。優しい日の光が形を成したならばきっとライアのようになるのだろう。
「言われたって言うか…リーヴ、また葉巻の量増えた、ってぼやいてるのを聞いちゃっただけなんだけど。」
「そうか。」
確かに最近、精神状態が安定しない。それに伴ってクスリの量が増えたのも、事実。
しかしそんな己の不調なんぞを恋人に知らせたくはなかったのだが。
覚えてろ、と無意識に呟いてライアを解放した。
「リーヴ…?」
やはり調子が悪いのかと不安そうな声を出すライアを安心させるように雰囲気を和らげてやる。
「茶菓子を作ってくると言っていた。あいつが来るまで薬草の調合を手伝ってくれないか。」
もちろん、と微笑むライアが愛しかった。
彼女に背を向けたクォルファの唇から小さな言葉が零れ落ちる。
「二度と、失うものか…!」
「リーヴ、どうかした?」
「…いや。」
ミリティウの鳴き声が優しく響いた。