マフィアなんだ。

いくらキャバッローネが非道な手段を好まないことで知られていたとしても。



「分かってんだ、分かってんだよ…」



窓から月明かりが差し込む自室にコンコン、と控えめなノックが響く。



「ボス…」



気遣わしげにロマーリオの声がするも、返事をする気にはなれない。



「俺が、」



なんだというのだろう。

もっと早く気づいていたら?もっと早く駆けつけていたら?


それでも部下を亡くさなかった保障なんてない。


それでも考えることをやめない自分はああ確かに、甘いのかもしれない。マフィアになんか向いていないのかもしれない。


どうあってもマイナス方向へと向かう思考を中断するような他人は今、この部屋にはいなかった。



「慣れなきゃなんねーのかよ…!」



人の死に。見知った人間を失うことを。


自分はボスなんだ。キャバッローネは小さなマフィアではない。ならば相応の人員を抱えており、その中から欠員が出ることだって珍しくはない。


ボスの肩書きを背負ってから、いやそれ以前から幾度となく別れを経験してきた。


これくらいなんともないと笑っていなければならない。非情でなければ他のファミリーに潰される。そんな世界だ。



「今回が特別って訳じゃあねーのに…」



葬儀はしめやかに、ひっそりと行われた。


被害は少なく済んだ方だ。命を落とした者自体少数で、その中に幹部クラスもいなかった。



大して交流のないいわゆる下っ端だ。彼らの家族など今日初めて会った。


それなのに。



がちゃり、と音をたて気配も殺さず入ってきたのはファミリー唯一の年下だろう。


振り向かない。振り向けない。



「どうした、傀識。」



ああ、声は震えていないだろうか。



「悪い、今日は一人にしといてくれねえか。」


「い、や。」



短くキッパリと告げられた否定の言葉に若干の苛立ちを感じる。対象が己か彼かは分からない。


無言を通せば、かすかにため息をついたのが分かる。


弱い自分に幻滅したろうか。闇に生きてきた彼は。殺人を生の糧とする、零崎傀識は。



「ボスとして、弱いところは見せられないって?…ディーノくん。今ここに、部下なんて一人もいないよ。」



彼の台詞の真意をつかみかね、表情を見るために振り返った。



「ディーノくん。僕達は家族なんだろう?家族の前では泣いてもいいし、弱音だって吐いていいんだ。ましてや虚勢なんて必要ない。」


「ね、大丈夫だから。」


「明日から、ちゃんと"ファミリー"でいるために、さ。」


「今日は。今だけは、家族でいようよ。」



静かに紡がれる言葉が、自分をマフィアのボスという重圧から解放する。


ただ、一人の人間であるディーノとして想いが唇からこぼれ落ちていくような気がした。



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