「かっこ良かったぜー傀識!」


「無駄にハラハラさせんなよ。ボスもあんま調子に乗るなって。」



上機嫌でハンドルを握るディーノくんとは対称的に、ロマーリオさんは深いため息をつく。



「ごめんねぇ。だって家族を馬鹿にされちゃ引き下がれないじゃない。」



タクトを取り出し弄ぶ。漆黒のこれはひどく繊細な作りをしているが、罪口商会のものだけあってとても丈夫なのである。

バックミラー越しに二人の視線を感じた。



「で、結局何なんだ?それ。」


「…指揮棒、だけど。」


「見りゃ分かる。どういう仕組みになってんだ。幻術じゃないよな?」



傀識がそれ使ってると魔法使いみたいだよな、とディーノくんが笑う。



「曲識くんはね、音楽家だったんだ。」


「は?あ、あぁ…」


「彼は音を使って他人の身体をのっとることができた。指揮権を奪えたんだ。…すごかったよ。彼が"止まれ"と口にするだけで皆動きを止めた。彼の演奏で敵は同士討ちを始めるんだ。」



目を閉じればありありと思い浮かべることができる。

美しい音色で戦う僕の大好きな人。



「…あれ、傀識さっき声出してなかったよな?音もたててなかったし。」

「あ、僕のは違うから。」



不思議そうに言うディーノくんにあっさり返せば軽くずっこけた。運転に支障はない。



「お前な…じゃあ今の話はなんだったんだよ。」


「ただの友達自慢。僕ってば曲識くんコンプレックスだから。」


「あのなぁ…」


「呆れないでよ。まあ、さ。曲識くんのは努力もだけど、それ以前に努力じゃどうにもならない才能あってのものだったわけ。練習したけどさっぱりだったよ。…だけどね。曲識くんに憧れてた僕としてはどうしても音楽関係のものを使いたかったから。」



これを楽器というのかは分からないけど。

指揮棒は音を出さないが、音楽をまとめる力を持っている。

どこまでもシンプルなこれは、しかしその役割において複雑な働きをする。



「種明かしは、これだよ。」


「?…ピアノ線、か?」


「ちょっと違うけどね、まぁ強い糸だよ。」



キラキラと光る曲弦糸は本来目に見えないが、束ねてあれば何と言うことはない。



「糸?」


「うん。普通は手袋して扱わないと危険だから、僕はこれを使って扱ってるわけ。」



この細さで曲弦糸に耐えるとは流石、罪口。



「へぇ…じゃあ俺のと似てるな。」



鞭は目に見えるけど、とディーノくん。

あぁ確かに。



「打撃は加えらんないね。」


「まぁなあ…で結局、それは憧れの産物なわけだな?」


「うん。なんで?」


「いや、別に…」



ロマーリオさんが小さく"鞭を持ったボスに指揮棒で人間を操る幹部か…"と呟いたのが生憎聞き取れてしまった。



うん。どんだけサディスティックなファミリーだよ、って話か。



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