「なんでだか、分かんねーんだ。」


「初めてなんかじゃないのに。自分のやれること、ちゃんと精一杯、やったはずなのに。」



主語やら目的語やらが抜け落ちた抽象的な言葉を、小さく相槌を打ちながら拾ってくれる。



「なんでだろ。死んだ、奴の家族が泣いてて。」


「それだって珍しいことじゃねえのに、」


「何も分かってない子どもが、父親の顔触ってて。」



―――ねぇ、起きてってば。今日は遊園地に連れて行ってくれる約束だったでしょう?



「うん。」


「まだこれから、こうやって色んな人間を見送って、残された人の姿を、見なきゃいけないんだよな。…そしていつかは。いつかは、自分の番なんだ。」



死を逃れる者はいない。輪廻の輪を外れた者はもはやヒトではない。

死ぬことも、怖くないわけじゃない。しかしそれ以上に、自分が死ぬことで誰かを泣かせることが悔しい。そして悲しい。

どうにか顔をあげれば、優しく微笑む彼がいた。

数えきれぬほどの人間をその手で葬り、一人ぼっちになってここにきた、彼が。

柔らかい声で紡がれる言葉に、少しずつ癒やされていく。



「ねぇディーノくん。僕はすでに二回、かぞくを失った。血のつながりも流血のつながりも、断たれてしまった。だけどね。彼らは僕が生きる支えとなっているし、何より。

もう失うつもりはないよ。僕達の想いのつながりは何があっても、誰にも断ち切らせたりしない。」



傀識は何度も俺の名前を呼ぶ。互いの存在を証明するように。



「ディーノくん。僕が、ううん。」



傀識は扉を開け放って、続けた。



「僕達が、貴方を支える。見てごらんよ。」



扉の先にはロマーリオを筆頭として、部下の面々。ファミリー集合に近い人数。

突然扉が全開になったことに驚いている様子からして集合がかかったわけではないのだろう。

個人的に心配して集まったということか。



「ね。貴方がいて、僕達がいて。死んだ家族の想いにさえ包まれてる。

大丈夫。

大丈夫なんだよ。何たって家族だからね。」



視界がにじむ。温かいものがじんわりと広がって、何も言えない。



「サンキュー、な。」



どうにか感謝の言葉を絞り出して笑えば傀識は満足そうに微笑み、部下達は号泣する。

良い、家族を持った。


失ったものを支えに進むことができるだろう。


こいつらと共に、ずっと。
















「おい、これ…」



数日後、新聞を広げたディーノは絶句した。

カルディノファミリー壊滅。部下を失う原因となったファミリーだ。

ロマーリオが覗き込み、苦笑する。ソファで紅茶を啜る傀識を二人で見やれば、彼はそれはそれは美しく笑んだ。



「僕は世界一かぞく想いの零崎だからね。」



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