「君が私を守ってくれるというなら、」



幾ばくかの疲れと呆れ、諦感を織りまぜた声で彼女は呟いた。

あまりに無垢でまっすぐな視線を受け止めるべきか否か、逡巡して。



「君が私を守ると誓う限り、私は君に守られる価値のある女であらねばならないわ。」


きょとん、と葵の台詞に相づちを打つ訳でもなく反駁するでも遮る訳でもなく、庄左衛門は目を丸くしている。何が言いたいのかわからない、とでも言うように。

あぁ、何て純粋なんだろう。権謀術数の中にいて。



「それがどれだけの労力を要するか分かっていて、あなたはそんなことを言うの?」



ああそういうことか、という声が聞こえた気がした。実際に音として発せられたかは不明。
いつだってそうなのだ、この男は。いつだって相手の台詞を注意深く、それはもう細心の注意を持って聞き、得心する。



「だって、」



そうしていつだって、私の不安も懸念も苛立ちも、そんなことかと払いのけてしまう。それは時に私を更なる不安や苛立ちに導くけれど、大体においてはプラスに働く。
そうやって、私達はうまくやってきた。



「だって、簡単なことだろう?葵、君には、そんなこと。」



全面の信頼、信頼どころか疑いそのものの存在をすら知らないコドモのような声に腹をくくる。ここまで言われて引き下がったら女がすたる。



「言ってくれるわ。ええ勿論、」



肩にかかった髪を払って笑う。
庄左衛門はその凛とした笑顔が好きだったし、どこか漢気を感じさせる葵を愛していた。
なんて、守りがいのある、


「――御安い御用だわ。」



良い女だ。

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