「阿呆だねぇ」
くつくつと押し殺しきれずに声をたてて笑う少年を、なぜ恐ろしいなどと感じたのだろう?
「ちょっと葵くん、もう少し真剣にやれない訳?ココ、仮にも合戦場なんだけど。」
「そーいう組頭サンだって真剣味のない座り方してんじゃん。」
嘲笑から、親しい者に向ける笑みへと、いとも簡単に切り替える。
忍とは思えぬ感情の豊かさ。しかしだからこそ、無表情の凄味が上乗せされるのか。
「横座りは癖みたいなもんなの。緊張感は保ってるよ。」
「僕だって弛緩してっ訳じゃないのに。」
視線を下方へ。死と隣り合わせの其れを見る表情はやはり嘲り。
「で、何が馬鹿みたいだって?」
「…あいつらも、僕らも。みーんな。」
「へぇ?」
「あーあ。」
ひょい、木の幹に体を預け天を仰ぐ。そんな軽はずみともいえる動作を行いながら、言葉通り隙など作らない。
「つくづく末恐ろしい、」
「ん?」
「や。」
「…あのね、ざっくん。イノチは、大事なんだよ?」
おかしそうに、言う。ふざけたような中にも愛しさがにじんでいて。嗚呼これは。
「伊作くんの受け売りかい?」
「んー。そのイノチ、ってやつをさ、どれだけの人間が大切に出来てるのかなぁ。」
何かあったのか。
弱気そうな葵の様子は彼に似つかわしくなく、それでも問いかけを形にすることは出来ない。
雑渡は、知っているから。
「キミも大概良い性格してるよねぇ。」
「あ、わかった?」
こぼれたため息の、意図と本心は同程度。
「白々しい。キミを甘やかしたつもりはないんだけどね。」
「あは。ざっくんは優しいよね。」
、優しい?
いや、これは甘いというんだ。でなければ。
「甘やかしてよ?」
本当に優秀だ。
これがまったくの無意識なのだとしたら、恐ろしいことこの上ない。
「はいはい。…葵は、ちゃんと大切に出来てるよ。いろんなものを。」
「ありがと。」
へにゃり、笑む。
自分は彼にとって心を許せ、かつ守る必要も心配もない存在として位置づけられているのだろう。
だからこそ、素のままの表情や言葉を投げ出すのだ。そしてその事自体が雑渡に微かな優越感を与えることも、きっと。
「おまえはさびしいね。こどものくせに余り賢いのも困りものかな。」
「自虐にも聞こえるね、それ!」
けらけらと笑う。そういえば目下の合戦も終局だ。
「かえろ、ざっくん。」
「はいはい。」
いつから、気づかれていたのだろう。
私と、彼が。
「ね、ざっくん。」
「?」
「僕ら、きっと似た者同士だ。」
知ってたよ、そんなこと。だけどね、わかっているのかな?似ているほどに、違いは際立つものなんだよ。