「大変だったなぁ文次。」

「言っとくが一番疲れたのはお前んところだからな…!?」


今日も恒例予算会議。今回は学園長を味方につけた学級委員長委員会の一人勝ちで幕を引いた。


「さっすがだよなぁ。しかし僕は参加してないよ。」

「お前の持ってる金平糖はなんだ!」

「は?…これは自腹だっつの。文次、六年ずっと僕が持ってるの見てなかったのか?」


なー留。と葵。手には色鮮やかな金平糖の包み。


「まあな…見る度に食ったり人にやったりしてるし。ってか何で俺。」

「だってしんべヱくんに直接同意を求めるのは酷かと思って。」

「しんべヱ?」


傍らのふくよかな一年を見やる。つながりが分からない。


「なんでしんべヱなんだよ?」

「僕が福富で金平糖を買い付けてるから。なー?」

「そうなのか?」

「はい!」

「安くしてくれるんだ、福富さん。」

「それは葵先輩がたくさん買ってくれるからですよー。」


ふむふむ、と危うく聞き流しかけてから六年組みが葵を振り返った。食べ物に関して福富しんべヱが"たくさん"の形容詞を使った…?


「あー、ちなみにしんべヱその、葵はどのくらい金平糖を買うんだ?」

「えっとー、はっきりは分からないですー。ただいつも業務用を買ってくれるんですよー?」


食満は業務用の量の金平糖を想像したのか青ざめ、文次郎は葵につかみかかる。


「葵、お前は金平糖食い過ぎだっ!だからいっつも飯あんま食わねーんだろ!?」

「んな、ガキじゃあないんだから菓子のせいで食べられないとかないから。」

「いーや!お前がいつまでももやしみてーに細っこいのもそのせいだな!?」

「いやいやいや。そんなに金平糖食べてたら逆に太ってるはずだろーよ。」

「うるせぇ!その上仙蔵なみに青白、」

「私を呼んだか、文次…?」


苦無が頬をかすめ、冷や汗が首を伝う。


「あーあ、文次が仙蔵のおもちゃになった。しっかし忍びは影に潜むんだしさ、健康的な必要ないっしょ?」


まあな、と食満。ちらりと葵を見る。


「大体ご飯だって残してないんだし、」

「元々の量を減らしてもらってんだろうが。」

「あっれ、何で知ってんの?そうだけどさ、体がそんな大量に受け付けないんだからしゃあないじゃんよ」

「一年のとき無理やり食って倒れたっけか。」


おばちゃんの気迫に押されて一人前を胃に押し込んだときのことだ。


「ん。流石におばちゃんも聞き入れてくれてさ。」


好き嫌い以外の理由であればお許しも出るそうだ。生徒の健康を管理しているだけはある。

成長期にも関わらず食事量が一向に増えない葵には心配が絶えないらしいが。


「おー。仙蔵の気がすんだらしいな。」


妙にすっきりした顔の仙蔵と疲れた顔の文次郎のコントラストもいつも通り。


「ほら文次。口開けー。」


と言いつつ無理やり文次郎の口を開いて金平糖を放り込む葵の姿も。


「お疲れ様、文次。疲れたときには甘いものだぜー。」

「ったく…」


綺麗で甘いなんてもはやこれは神の食べ物だ!と笑っていた葵を思いだす。

実習で委員会で、疲れた自分たちや後輩たちに食べさせるのが彼の習慣だ。

食満は後輩たちに金平糖を配りにいった葵を眺めながら隣にきた仙蔵に声をかける。


「なぁ、金平糖って高いよな?」

「少なくとも一般人が大量に買えるものではなかろう。」

「無理してねぇと良いけど。」


身寄りのない葵が危ないことをしているらしいことに気づかない六年ではない。


「己の力量くらいわきまえておろうよ、葵は。」


無茶をすることすら自分に許さない彼の自制心には感嘆する。

しかしだからこそ、いつか壊れてしまわないかと気をもんでしまう。


「とーめっ、仙蔵!金平糖って色ごとに味違ったりしないかなぁ。はいっ。」


そんな心配にも気づいているのだろう。それでも葵は何も言わないのだから、きっと大丈夫。なぁ、そうだろ?


「さあな、色別にわけてみるか?」

「わぉ、良い考え!な、仙蔵も手伝え!」

「相も変わらず阿呆なことを…」

「とか言いつつやってくれるもんな。」

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