あ、雨。
あたりは明るい。というのも西日がさしているから。世界は赤く染まり眩しいほどだと言うのに、小さな雨粒が頬を濡らした。
「葵?泣いているの?」
勉強に一区切りついたらしい兵助が縁側に腰掛ける私の隣にやってくる。
「ううん。雨がね、降っているの。」
「へぇ、珍しい。」
彼が屈んで腕を伸ばすのが目の端に写り、ぼやけた。
「葵、やっぱり泣いてる。」
「あれ、本当?…なんだかね、すごく…」
なぜだろう、言葉が出てこない。
ゆっくりと撫でられる感触は安心感と共に涙を溢れさせる。
「狐の嫁入りの話、ね。狐がどうしても好いた男と結ばれたいがために、命を落としたという逸話があると、読んだの。」
「うん。」
「この雨が悲恋の象徴だなんて言うつもりはないけどね、」
背中に体温を感じて、言葉が途切れる。
「葵、冷たい。」
「ずっとここにいたもの。」
「俺だって体温高い方じゃないんだから、冷えすぎだ。」
「だって」
「ほら、おいで。」
兵助は私を部屋に引き入れて、障子を締め切ってしまう。
綺麗な景色が見えなくなってしまったのは口惜しいけれど、自分が精神的にとても落ち着いたことが分かった。
「私、寒かったんだ。」
「やっと自覚か。葵は寒いと人恋しくなるからなぁ。」
兵助は火鉢を用意して傍らに座ると、両腕を広げて柔らかく笑む。
「寒さと人恋しさを同時に解消しよう。ね?」
「この低体温カップルが!人肌で暖まるってのは片方体温高くねぇとできねぇんだよ!」
「「でも心は暖まった。」」
「お茶いれてきたよー。」
「一応バカップルなのに暑苦しくなんねぇってのもレアだよな。」
「凍え死んでしまえ!」