「これで…最後か。」
「大変だったねー。」
「なー。」
例に漏れず脱走した毒虫回収に奔走していた生物委員会。
しかし今回はいつもより早めに片が付いた。
「お疲れ様。お前らもういいぞ。」
「「「ありがとうございましたっ!」」」
「孫兵、ちょっと残れるか?」
「はい…?」
人間にはさして興味のない孫兵だったが、この生物委員長には一目置いていた。
愛しのジュンコが彼にじゃれついているとき以外は。どちらかと言えば人間より獣に近い気がするからだとは、賢くも口には出さない。
「何か…?」
「ん、悪いな。葵さん、知ってるだろ?」
「…えぇ、もちろん。」
孫兵の薄い唇が、珍しく緩む。知名度もさることながら、あの美しい六年には個人的に好意を抱いているから。
人間の話題に関してひどく冷淡である後輩のその反応に竹谷は少々面食らう。
「僕の顔に何かついてます?」
「いや…ちょっと驚いただけだ。知り合いか?」
「話したことはありますよ。ジュンコの美しさを認めつつ僕から奪おうとしない素晴らしい人です。それで?」
「そっか。…そろそろだと思うんだけど。」
きょろきょろと周りを見回す竹谷のほど近くにふっと人影が現れる。
「待たせたな、ハチ。久しぶり、孫兵。」
降り立った葵は片手をあげて挨拶し、さて、と孫兵を見やる。
「ジュンちゃんきみちゃん連れてついてきてもらっていいか?」
「え?ええ、どうせ散歩に出るつもりでしたし、構いませんが。あ、でも」
「どちらかは僕かハチに任せれば大丈夫だろう?」
「では、きみこをお願いします。」
あっさりと恋人を手渡した後輩に竹谷は再び目を見開くが、何も言わず納得した。
「じゃあハチ、後ろ頼む。」
「はい!えっと…俺が最後尾で良いんですよね?」
「ん。僕が先導する。」
先輩二人にはさまれて山道を登ることになった孫兵は微妙な顔をしながらも黙って歩く。
山道はやがて獣道となり、立ち込める雰囲気もまた厳かなものになっていく。
「あの、葵先輩…?このまま進むんですか?」
「あぁ。大丈夫だ、お前と彼女たちが傷つくことはない。」
首に巻いた愛蛇からいつにない緊張感が伝わってくる。怯えてはいないようだから葵の言葉は事実なのだろうけど。
不安に後ろをちらと見れば、委員長が真剣な面もちながらもニッと笑いかけてくれて、どうにか己を落ち着けることに成功した。