「左近そっちは駄目だ右斜め前に進め。あぁ乱太郎その岩に近寄るな。っておい伊作つまずくなよ何もないとこでっ!…たく…」
この数日、葵は保健委員に付きっきりである。ちなみに伏木蔵は今葵の腕の中だ。
言ったそばから穴に近づいてしまう(意図的でないのが不運委員会たるゆえんだ。)彼らに注意を促す葵にも流石に疲れの色が見えている。
「あの、矢崎先輩…大丈夫ですか?」
おずおずと数馬。同級生である伊作や一、二年はまだしも、自分が世話になるのは申し訳ない。
そんな思いが伝わったのか否か、葵は笑って数馬の頭をなでる。
「気ぃ使わせて悪いな。多分もう少しだか「うわっ」伊作っ!?」
振り向いた先には落ちかけた伊作の襟をつかんだ仙蔵の姿。
「ありがとー仙蔵。」
「見ていて飽きないなぁお前たちは。」
「人事じゃないっしょ仙蔵。どっちかってーとあんたが当事者だ。」
言い合う二人を見て一年組。
「立花先輩にあんな口きける人って矢崎先輩くらいじゃない?」
「潮江先輩も食満先輩も立花先輩には逆らえないもんね…」
これには伊作も苦笑をもらす。
「聞こえておるぞ一年坊主。伊作、なにがおかしい?」
「「す、すいませんでした!」」「ひっ!?」
「ったく…で葵、どうだ?」
「僕が保健委員につき始めてから穴が急増してる気がするよ。」
「あぁ、明らかに不機嫌になっているな。」
この結果を見越していたような会話に数馬は不審に思う。
綾部先輩を怒らせたら余計ひどくなるのではないだろうか。
というより何故綾部先輩が不機嫌になるのかも分からない。
「そろそろ、だろう?」
「じゃないと僕の体力保たないわ。」