葵によって閉じられたばかりの戸が再び開き、兵助は我にかえる。


「すまんな、一人でやらせてしまって。進みはどうだ?」

「土井先生…あ、えっと。確認が終わったところです。」

「そうか。…?」


土井の視線が己の後ろ、口のあいた火薬袋に注がれていることに気づきうろたえる。

思えば葵は教師のいるときに火薬をもらいにくることもなかった。

まさか先生が一切の事情を知らないわけではないだろうが。

代金はちゃんともらっているのだし、葵も許可は取ったと言っていたし…


「あ、今片付けます。あの、これは、」

「葵、かい?」

「え…」


正直に言ってしまって良いのだろうか。


「ずいぶんペースが速いな。」

呆れたような、悲しむような。

先ほど自分の頭をよぎったのと同じ考えが音として表れたことにより、逡巡を放棄した。


「やはりご存じだったんですか?」

「そりゃあね。何でだい?」

「おれ以外の人がいるときに、葵さん来ないから…」

「ああ、そうだね。」


土井半助は苦笑して作業にとりかかる。それを見て兵助も慌てて手伝いだした。


「嫌なんだろうな。」

「何がです?」

「私たちは教師で、あの子は生徒だ。あの子がどんなに強いとしてもね。」

「はぁ…」

「だから。」


よい子たちを相手にしているときの笑顔はそこにはなかった。


「土井先生…?」

「火薬は相手を傷つけるために使われる。だが同時に葵の心も傷ついているんだ。だからつい、彼が火薬を求めるとき、少しばかり責めてしまうことがある。自分を、な。」


ああ、その感情はひどく身近なものだ。兵助もまた葵に火薬を渡すとき、悲しみのような怒りのような、そんな思いに駆られることがある。

自分は彼を傷つける手伝いをしているのでは、と。


「あの子は優しい子だよ。私たちが彼を責めるならともかく、自分自身を責めていることがつらいんだろう。」


今日はこれでおしまい、と土井半助は立ち上がる。


「それでもな、久々知兵助。」

「はい…?」


出口へと向かいながら言葉は続く。


「その葵が、申し訳ないと思いながらも止めないことならば、私たちも見守ってやろうと、そう思っているんだよ。」

「そう、ですね…」


戸が開く。久しぶりに見る世界は最後の光が沈みかけ、濃い夜闇が迫りつつあり。

ふと見れば葵の背が小さくなっていくところだった。

それがまるで彼が闇に沈む様でもあるようで、心が震えた。

そっと肩に重みが加わる。


「大丈夫だ、葵は強い。」


きっと。大切なものを守りぬく、彼だから。きっとここに帰ってくる。

彼は闇に切り込んでいったのだ。

御武運を。心の中だけで呟き、兵助は静かに瞑目した。



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